アーバスキュラー菌根菌によって吸収されたカドミウムは地上部に移行しにくい

要約

アーバスキュラー菌根菌(AM菌)は宿主にカドミウム(Cd)耐性を付与する。そのメカニズムはAM菌共生によるリン栄養改善・宿主の生育促進以外に、AM菌菌糸が吸収したCdをAM菌組織内に留めて地上部への転流を抑制することによる。

  • キーワード:アーバスキュラー菌根菌、重金属耐性、カドミウム、分画ポット、蛍光X線分析
  • 担当:中央農業研究センター・土壌肥料研究領域・土壌生物グループ
  • 代表連絡先:電話029-838-8979
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

アーバスキュラー菌根菌(AM菌)は陸上植物の根に共生し、宿主の養水分吸収促進による生育促進・宿主への病虫害耐性の付与・土壌構造の改善など多面的な効果を持つ。その機能の一つとして、AM菌が共生した植物は重金属に対する耐性が向上することが知られているが、その詳細なメカニズムは未解明である。
そこで、本研究では分画ポットを用いた栽培試験によってAM菌が共生した植物がカドミウム(Cd)を吸収した場合のCdの植物体内分布を明らかにするとともに、シンクロトロン放射光によるマイクロビーム蛍光X線分析により菌根内でのCdの動態を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • AM菌の種類により宿主へのCd耐性付与の程度が異なる。ミヤコグサ(Lotus japonicus MG20)を宿主として3種のAM菌(Gigaspora margarita (GM), Acaulospora longula (AL), Rhizophagus irregularis (RI))を比較するとRIの効果が高く、GMの効果が最も小さい(データ略)。
  • 一般にリン酸供給能が高く宿主生育促進に効果的な菌が宿主のCd耐性をより強化する(データ略)。AM菌感染による生育促進とCd吸収促進は正の相関を示すが、Cd耐性付与に効果的なRIでは高濃度Cd存在下では生育促進程度から予測されるCd吸収促進よりも低いCd吸収を示す(図1)。このことはRIが宿主によるCd吸収の障壁となっている可能性を示す。
  • 分画ポット試験(図2A)により植物根とAM菌菌糸の両方もしくはAM菌菌糸のみがCdを吸収する条件では、いずれの場合も地下部のCd吸収はAM菌感染によって促進される(図2B)。植物根とAM菌菌糸の双方が吸収に関与している場合とAM菌菌糸のみがCd吸収に関与している場合とでは、吸収されたCdの地上部への転流効率が異なる。菌糸が吸収したCdは地上部には転流されず地下部に留まる割合が大きい(図2C)。
  • 吸収されたCdの菌根組織内での分布はシンクロトロン放射光を用いたマイクロビーム蛍光X線分析で解析できる。AM菌菌糸のみがCdを吸収できる条件で栽培したとき、菌糸が吸収したCdは植物細胞には受け渡されずにAM菌組織内に留まる(図3)。

成果の活用面・留意点

  • AM菌が共生した植物におけるCdの動態を理解するための基礎的知見として活用できる。陸上植物の80%以上の種はAM菌と共生することが知られている。
  • 本研究成果はミヤコグサ(L. japonicus MG20)を宿主として得られたものである。AM菌株による宿主の生育促進効果は宿主と菌の組み合わせで変化する可能性がある。
  • 本研究における宿主の生育期間は8週間であり、生育旺盛な時期にサンプリングしている。AM菌組織は菌根内で形成・崩壊を繰り返していることが知られている。より長期間のCd動態を解明する上では崩壊したAM菌組織から放出されたCdの動態についても検討が必要である。

具体的データ

図1 異なるAM菌が感染した植物のCd吸収の差,図2 植物根またはAM菌菌糸が吸収したCdの植物体内での動態,図3 AM菌菌糸が吸収したCdの菌根内での動態

その他

  • 予算区分:交付金、その他外部資金(JSPS外国人特別研究費、(財)鉄鋼業環境保全技術開発基金)
  • 研究年度:2006~2009年度
  • 研究担当者:大友量、陳保冬、名雪圭一郎(信州大学)、久我ゆかり(広島大学)
  • 発表論文等:
    • 大友ら(2008)重点ナノテクノロジー支援課題研究成果報告書、4:86-87
    • Nayuki K. et.al. (2014) Microbes Environ. 29:60-66
    • Zhang X. et.al. (2015) Soil Sci. Plant Nutr. 61:359-368
    • Chen BD. et.al. (2018) Microbes Environ. 33:257-263