多雪重粘地における乾田直播水稲-大麦-大豆2年3作での作土の孔隙特性の変化

要約

多雪重粘地における乾田直播水稲-大麦-大豆2年3作では、2年に1度水稲栽培を行っても畑地土壌の性質は失われず、作土中の排水性に関与する粗孔隙および作物が利用する水を保持する易有効水分孔隙は増加、乾燥密度は減少し、孔隙特性は畑作物栽培に好適な方向に変化する。

  • キーワード:乾田直播水稲、無代かき、多雪重粘地、水稲-大麦-大豆2年3作、孔隙特性
  • 担当:中央農業研究センター・水田利用研究領域・北陸土壌管理グループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

北陸地方に特徴的な多雪重粘地の水田は、排水性に関与する粗孔隙が少ないため、畑転換の際に湿害を受けやすいだけでなく、作物が利用できる水を保持する易有効水分孔隙も少ないため干害も受けやすい問題がある。畑転換により土壌構造は次第に畑地化するが、復田の際に代かきを行うと1年目で畑地土壌の性質が失われるとされている。そこで、代かきを行わない乾田直播水稲-大麦-大豆2年3作体系における作土の易有効水分孔隙、粗孔隙、乾燥密度等の孔隙特性の変化を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 乾田直播水稲の播種には不耕起V溝直播機(愛知県農業総合試験場、2007)を用いる。均平は、水稲の前年の大豆収穫後にアップカットローターで耕起した後、レーザーレベラーで行い、翌春そのまま播種する。
  • 2巡の乾田直播水稲-大麦-大豆2年3作(図1)によって、作物が利用できる水を保持する易有効水分孔隙は、1巡目の大麦後と2巡目の大麦後の間の1巡目の大豆、均平作業、2巡目の水稲を経ても有意に増加し、2年3作開始前の0.05m3/m3程度が、2巡の2年3作の終了後には0.11m3/m3にまで増加する(図2)。
  • 排水性や通気性に関与する粗孔隙は、2年3作開始前の0.02m3/m3弱が、終了後には0.20m3/m3前後に増加し、特に1巡目の大麦作前後で大きく変化したことが分かる(図3)。
  • 乾燥密度は2年3作により減少し、開始時1.2Mg/m3から終了後0.9Mg/m3にまで変化する(図4)。
  • 以上から、復田の際の代かきにより1年目でも畑地土壌の性質が失われるとされているが、水稲を乾田直播とした水稲-大麦-大豆2年3作では、2年に1回水稲を栽培しても作土の孔隙特性は保水性・排水性の点で畑作に好適な方向に変化する。

成果の活用面・留意点

  • この成果は多雪重粘地における水田輪作の展開のための基礎的知見として活用できる。
  • 測定圃場は、測定開始の前々年は代かき移植水稲で、収穫後に地下水位制御システムを施工し,翌年(測定開始の前年)は大豆を栽培、収穫後にアップカットローターによる耕起およびレーザーレベラーによる均平を行い、翌春から2年3作に供している。
  • 大麦と大豆の播種には耕うん同時畝立て播種機(細川、2005、2008)を用いている。
  • 作物残渣はすき込み、これ以外の堆肥等の有機物は施用していない。

具体的データ

図1 乾田直播水稲-大麦-大豆2年3作体系の概要,図2 水稲-大麦-大豆2年3作における作土(収穫後に条間から採取;採取深さ0~10cm)中の易有効水分孔隙量の変化,図3 水稲-大麦-大豆2年3作における作土中の粗孔隙量の変化,図4 水稲-大麦-大豆2年3作における作土の乾燥密度の変化

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(水田底力)
  • 研究期間:2011~2019年度
  • 研究担当者:鈴木克拓、大野智史、関正裕
  • 発表論文等:鈴木ら(2020)土肥誌、91:75-79