圃場別データセットを活用した大規模水稲作経営に対するデータ駆動型改善提案の要点

要約

多くの圃場を管理する大規模水稲作経営において、栽培管理記録や面積あたりの推定収量を圃場別に集約したデータセットを構築することにより、収量と各種要因との関係を「見える化」することができる。推定収量の低い圃場・栽培法などの特定と、要因の摘出や改善策の提案に活用できる。

  • キーワード:大規模水稲作、データ駆動型生産、収量コンバイン、圃場別データセット
  • 担当:中央農業研究センター・生産体系研究領域・輪作体系グループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

農村部の労働力不足や離農に起因する経営面積拡大に対応するには、生産性を抜本的に向上するための先端技術の速やかな実装が求められている。とくに、「農業のあらゆる現場において、ICT機器が幅広く導入され、栽培管理等がセンサーデータとビッグデータ解析により最適化」されるためには、ビッグデータ解析に必要な項目を網羅したデータセットの構造を決定するとともに、普及が進んでいる収量コンバインなどを活用して、データをできるだけ自動的に取得することが求められる。
そこで、本研究では、大規模水稲作を展開する農業生産法人を対象に、多数の作付圃場の栽培管理記録や収量を網羅する圃場別データセットを構築し、実際に収集するデータの解析により低収要因を摘出して、改善策を提案するとともに、解析や提案における要点を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 収量向上のための解析・提案手順(図1)の基盤となる圃場別データセットは、圃場名や立地ブロック、面積などの基本情報、作付品種や栽培方法などの集計キーとなる情報、移植日・播種日、収穫日などの作業情報、肥培管理情報、防除情報を必須項目としている(表1)。一部の項目は、実態に応じて複数回の設定が可能である。生産法人の記録方法に応じて、使用している営農管理システム出力の読み込みや手書き日誌の転記などにより、各圃場を独立したレコードとして、市販の表計算ソフトウェアに収集する。
  • 収量データは、乾燥・調製ロットごとに得られる実調製量を、収穫した圃場に対応させて算出することも可能であるが、収量コンバインを使用すると、圃場別の収穫量が営農管理システムに記録されるので、その出力の読み込みにより、より簡便に面積あたりの推定収量を収集できる。
  • 低収圃場の抽出では、推定収量から、品種・栽培法別の加重平均値と圃場間標準偏差を用いて推定収量スコアを算出することにより、圃場別の判定を客観的に行うことができる(図2左)。
  • 表計算ソフトウェアの機能を用いてデータを抽出・集計し、さらにグラフを作成することにより、推定収量スコアと各種要因の関係を「見える化」して、改善提案を支援することができる。2019年龍ケ崎市A生産法人における事例では、農研機構が開発した栽培管理支援システムの発育予測機能を用いて、圃場の位置情報から出穂期を推定すると、推定出穂期が遅い特定の立地ブロックに、推定収量スコアの低い圃場が多い(図2右)ことが示され、出穂期が遅くなる作型の「回避」または「栽培法の変更による生育量確保」などの改善策を提示して、翌年の作付計画に反映させることが可能である(表2)。

成果の活用面・留意点

  • 圃場別データセットは、指導員などが行う大規模水稲作経営に対する改善提案の根拠として、さらに提案実施効果の検証において、それぞれ利用できる。
  • 2019年の改善提案では、推定収量が加重平均値+圃場間標準偏差より高い圃場を高スコア(>10)、加重平均値-圃場間標準偏差より低い圃場を低スコア(<-10)と判定している。
  • 現時点でのデータセットには、単独で推定出穂期を取得する機能はない。

具体的データ

図1 データ駆動型大規模水稲作における収量向上のための解析・提案手順,表1 圃場別データセットの基本構成(抜粋),図2 2019年龍ケ崎市A農場における圃場別推定収量スコア分布(左)および圃場立地ブロック・推定出穂期との関係(右、品種:コシヒカリ),表2 龍ケ崎市A農場におけるコシヒカリの作付改善提案と採用状況

その他

  • 予算区分:交付金(H31当初「スマート農業実証」)
  • 研究期間:2019~2020年度
  • 研究担当者:石川哲也
  • 発表論文等:石川ら(2021)日作紀、90:222-229