大規模圃場管理に対応した作業軌跡の記録および解析手法

要約

自動的に位置情報の記録開始・終了を行う装置である「GNSSロガー」と「作業軌跡統合解析ソフトウェア」により作業軌跡の入力・表示・解析を行うことができる。圃場作業量・圃場間移動距離が算出でき、複数の作業軌跡を表示する機能によりロボット農機の分析等に活用できる。

  • キーワード:大規模経営体、GNSS、作業軌跡、ロボット農機
  • 担当:中央農業研究センター・生産体系研究領域・作業技術グループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

農業従事者の減少・高齢化と担い手への農地集積が見込まれる中で、100ha級の大規模経営体が地域の重要な担い手となっている。これらの担い手では数100筆におよぶ圃場に対して好適期間のうちに作業を行う必要がある。さらなる規模拡大に対応するため、ロボット農機等の導入による省力化・高能率化が期待されるが、運用効率を最大化するには各圃場の作業時間、移動時間も含めた作業経過を記録・解析し最適化する必要がある。しかし、紙への記帳や携帯端末への手動入力を前提とした方法では、記録し忘れや間違い等の問題があり、解析も含めて作業者・管理者への負担が大きい。
そこで、複数台の農業機械を運用する大規模経営体を対象に、実作業者の負担にならない自動的かつ正確な記録手法とそれに対応した解析手法を開発する。

成果の内容・特徴

  • 農業機械の位置情報を記録する「GNSSロガー」は、GNSS受信機とmicroSDカード記録基板を組み合わせた装置であり、SMAコネクタを備えたGNSSアンテナが接続できる。対象機械に稼働状況と連動した電源(トラクタではシガーソケット等)の配線と受信状態が良好な位置にアンテナを設置することで、作業期間中のデータが自動的に記録される(図1)。
  • 「作業軌跡統合解析ソフトウェア」は、記録された位置情報の集合(以下、作業軌跡)の入力・表示・解析を行うソフトウェアである。数カ月におよぶ作業期間を想定した100万点以上の軌跡と複数台の農業機械の管理に適したファイル形式に対応している。軌跡のXYグラフ表示と対応する速度グラフから、マウス等を利用した操作により圃場の入退出の地点を特定し、固有名称を付加した開始・終了時刻地点の情報を「イベント」として記録・呼び出しが可能である。本ソフトは地図表示機能は備えていないが、指定位置をウェブブラウザ上でGoogle Mapsにより表示する機能を活用することで、圃場の特定が可能となる(図2)。
  • 「イベント」はファイルとして保存することができ、軌跡を解析し時間・距離・速度をCSVファイルに出力できる。表計算ソフト等により対応する圃場の面積を台帳等から入力することで圃場作業量を算出できる。また、イベント間の作業軌跡から圃場間移動距離を算出する。ただし、日付の最初と最後では軌跡の開始・終了地点をそれぞれ起点・終点として算出する(図3)。
  • マルチグラフ機能は、複数の作業軌跡の同時表示ができる。表示範囲を連続的に変化させる再生機能があり、ロボット農機である無人トラクタと慣行のトラクタを一人のオペレータで作業を行う同時作業・協調作業等の進捗状況を把握できる(図4)。

成果の活用面・留意点

  • 試験研究機関や普及センター等において農作業の分析ツールとして活用できる。
  • 「GNSSロガー」は汎用部品で構成され、部品代は12,000円/台で基本的な電気工作の技術があれば製作できる。希望者には部品表・製作用マニュアル等の資料を提供する。
  • 「作業軌跡統合解析ソフトウェア」はWindows10で動作する。「GNSSロガー」の記録ファイルだけではなく汎用的なGNSS情報(NMEA0183、GPX等)にも対応している。

具体的データ

図1 GNSSロガーと農業機械への設置方法,図2 作業軌跡統合解析ソフトウェア,図3 イベント解析と圃場作業量および圃場間移動距離の算出,図4 無人トラクタと慣行トラクタの同時・協調作業のマルチグラフ表示

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2016~2020年度
  • 研究担当者:建石邦夫
  • 発表論文等:職務作成プログラム(2020)「作業軌跡統合解析ソフトウェア」、機構-A43