有機水稲栽培への高能率水田用除草機の導入の目安と栽培面積拡大の可能性

要約

高能率水田用除草機を導入した有機栽培の費用合計は慣行栽培対比で123%となり、これを上回る販売価格を実現できるかが導入の目安となる。線形計画により試算すると、機械作業ができる労働力を繁忙期に1人追加できれば、有機水稲栽培面積は除草機導入によって469aまで拡大できる。

  • キーワード:高能率水田用除草機、有機水稲、栽培面積、線形計画法、費用合計
  • 担当:中央農業研究センター・生産体系研究領域・営農システム評価グループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

有機水稲栽培の拡大に向けた生産面の課題のひとつは除草労働時間の長さであり、除草労働の省力化が可能な高能率水田用除草機(以下、除草機)が市販に至っている。除草機のより広範な普及に向けては、慣行栽培水稲との組み合わせや除草作業と他の作業との競合等の営農実態を踏まえ、除草機導入の経済効果を析出することが求められる。そこで、2018年に行った実証試験をもとに、除草機による有機水稲栽培の費用合計や労働時間を整理するとともに線形計画法による試算を行い、除草機導入の目安と有機水稲栽培面積拡大の可能性を示す。

成果の内容・特徴

  • 除草機(6条タイプ)を導入した有機水稲栽培実証体系(以下、実証体系)は慣行栽培と比べ、(1)除草機の導入により農機具費が0.6万円高くなること、(2)労働時間の増加により労働費が1.1万円高くなることなどから10aあたり費用合計は実証体系が約1.6万円高くなる(表1)。
  • 60kgあたりの費用合計は慣行栽培対比で123%となっている(表1)。この増加分を有機栽培米の販売価格で賄えるかどうかが、除草機導入の目安となる。実証経営の有機栽培米の価格は慣行栽培の177~182%であり(図表略)、現状価格が維持されれば実証体系は有利性をもつとみられる。
  • 実証体系では、抑草効果を得るため田植後3回程度の除草機による機械除草を適期に行うことが重要だが、この頃の主な作業として、代かき、田植、慣行栽培圃場における除草剤散布が除草機による除草作業と競合する(図1)。除草効果を得るには春作業の集中する時期でも、計画的に作業を進捗させるとともに、適期に確実に機械除草が行える労働力の確保が必要となる。
  • 線形計画法により除草機の導入効果を試算すると、除草機を導入し借地による規模拡大が可能な条件を置いたモデル3-イでは、有機水稲は305aにまで拡大可能で、モデル3-アと比べると農業所得は184万円の増加が見込まれる(表2、図2)。さらに、除草機を導入し繁忙期に機械作業が可能な労働力を1人追加する条件を置いたモデル4-イでは、有機水稲栽培面積は469aまで拡大できる。
  • 各モデルの試算結果は、いずれも除草機の導入が有機栽培面積の増加と農業所得の向上につながっており、除草機は水稲の有機栽培の取組面積拡大に寄与する。

成果の活用面・留意点

  • 除草機導入時の判断や導入後の作付計画の策定時等の参考情報として活用できる。
  • 実証体系の詳細は、農研機構(2020)「高能率水田用除草機を活用した水田有機栽培の手引き」を参照。
  • 除草機は実証経営の実態に即して生産者組織(8経営が参画)での共同利用を見込むとともに、家族経営を想定した試算を行っている。さらに規模の大きな経営での導入については、別途検討が必要である。

具体的データ

表1 水稲の生産費用(実証結果),図1 時期別労働時間(実証結果),表2 試算の前提条件と試算内容,図2 線形計画法による有機水稲の栽培面積と農業所得の拡大可能性(試算結果)

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2018~2019年度
  • 研究担当者:島義史、三浦重典、上西良廣
  • 発表論文等:島ら(2020)農林業問題研究、56:54-61