造形樹輸出の障害となるオオハリセンチュウを判別するPCRプライマー

要約

6種オオハリセンチュウに対応したプライマーセットを用いることで、造形樹から分離された線虫がオオハリセンチュウか否かを1回のPCRで判別することができる。種特異的に設計した6つのプライマーペアを用いたPCRによって、オオハリセンチュウの種を推定することができる。

  • キーワード:盆栽、植木、苗木、輸出、オオハリセンチュウ、PCR
  • 担当:中央農業研究センター・虫・鳥獣害研究領域・線虫害グループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

植物防疫所が実施する栽培地検査及び輸出検査で植物寄生性線虫が検出された造形樹(盆栽、植木)及びそれらの苗木は輸出することができない。また、輸出相手国の検疫で植物寄生性線虫が検出されると、荷口全体が不合格になって高額な経済的損失が生じる。このため、線虫汚染のない造形樹の生産技術や、商品価値の低下を抑えながら樹木から線虫を除去する技術の開発が求められている。そこで本研究では、造形樹生産県の公設試における今後の線虫対策技術の開発に資するため、植物寄生性線虫のうち検疫上重要な種群が含まれるオオハリセンチュウを対象として、形態的特徴に基づいて線虫を見分ける能力を要しない判別技術を開発する。

成果の内容・特徴

  • プライマーセットA(表1)を用いたPCRでは、造形樹で発生が確認されている5種オオハリセンチュウ(コーヒーオオハリセンチュウ、Xiphinema sp.、ヤマユリオオハリセンチュウ、X. parachambersiX. hunaniense)及び今後の調査で発生が確認される可能性があるキイチゴオオハリセンチュウの増幅バンドが認められ、非植物寄生性線虫では認められない(図1A)。
  • プライマーペアB~G(表1)を用いたPCRでは、コーヒーオオハリセンチュウ(418 bp)、Xiphinema sp.(624 bp)、ヤマユリオオハリセンチュウ(419 bp、100~300 bpのマイナーバンドが現れる場合あり)、X. parachambersi(408 bp)、X. hunaniense(660 bp)及びキイチゴオオハリセンチュウ(299 bp)の増幅バンドが、それぞれ種特異的に認められる(図1B~G)。

成果の活用面・留意点

  • 造形樹から分離された線虫1個体から濾紙押しつぶし法で抽出したDNAを、プライマーセットAを用いた1回のPCRに供試して増幅バンドの有無を確認することで、当該線虫がオオハリセンチュウか否かを判別することができる。プライマーセットAを構成するプライマーの1つは、ボンサイオオハリセンチュウ、コナラオオハリセンチュウ及びサトウキビオオハリセンチュウとも共通する配列に基づいて設計しているため、前記6種以外のオオハリセンチュウでも増幅バンドが認められる可能性がある。
  • 線虫1個体から抽出したDNAを、プライマーペアB~Gを用いた各PCRに供試して増幅バンドの有無を確認することで、オオハリセンチュウの種を推定することができる。これにより、EU諸国が域内侵入を特に警戒しているアメリカオオハリセンチュウグループに属する2種(コーヒーオオハリセンチュウ、Xiphinema sp.)を判別することができる。
  • プライマーペアEを用いたPCRではX. parachambersiに近縁のコナラオオハリセンチュウの増幅バンドが、プライマーペアGを用いたPCRではキイチゴオオハリセンチュウに近縁のX. japonicumの増幅バンドが、それぞれ認められる可能性がある。

具体的データ

表1 オオハリセンチュウ判別用プライマーの塩基配列,図1 オオハリセンチュウ判別用プライマーを用いたPCR産物のアガロースゲル電気泳動像

その他

  • 予算区分:交付金、その他外部資金(27補正「地域プロ」)
  • 研究期間:2016~2019年度
  • 研究担当者:立石靖、植原健人
  • 発表論文等:Tateishi Y. and Uehara T. (2020) Nematol. Res. 50:13-17