Stvb-iによるイネ縞葉枯病抵抗性の持続性は分裂組織の生育安定性により担保される
要約
イネ縞葉枯病抵抗性遺伝子Stvb-iは、ATP結合ドメインを有する未知のタンパク質をコードし、イネの分裂組織で特異的に発現し、生育安定性に貢献する。そのメカニズムにより、分裂細胞での縞葉枯ウイルスの増殖が抑制され、縞葉枯病に対する持続的な抵抗性がイネに賦与される。
- キーワード:イネ、縞葉枯病、Stvb-i遺伝子、抵抗性の持続性、分裂組織の生育安定性
- 担当:中央農業研究センター・病害研究領域・抵抗性利用グループ
- 代表連絡先:
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
イネ縞葉枯病は、世界のコメの主産地である東アジアで甚大な被害をもたらしているウイルス病害である。我が国では本病の発生流行に周期性が見られるが、発生の終息に関与する要因は不明である。そのため、本病の防除対策は、抵抗性品種の作付けや殺虫剤の施用による媒介昆虫の駆除等の予防的な手法に頼っている。なかでも、抵抗性の利用効果は高く、多くの抵抗性品種が育成されている。国内で最も利用されている縞葉枯病抵抗性遺伝子Stvb-iによる抵抗性は50年以上にわたり、崩壊していない。しかしながら、植物の病害抵抗性は、NBS-LRRタンパク質によるものが多く、その持続性に不安があることが知られている。Stvb-iがコードするタンパク質を明らかにし、その抵抗性の持続性に関する知見の蓄積が求められている。
そこで、Stvb-iによる縞葉枯病抵抗性の持続性について、接種試験およびStvb-iのメカニズムから検証する。
成果の内容・特徴
- イネ縞葉枯病抵抗性遺伝子Stvb-iを保有するイネは、病原の縞葉枯ウイルス(rice stripe virus, RSV)を保毒し、継代飼育を続けた媒介虫集団を用いた接種試験(20年間で合計92回)において安定した抵抗性を維持し(図1)、Stvb-iによる抵抗性は持続的である。
- Stvb-iは、研究事例の多いNBS-LRRを保有する植物抵抗性タンパク質とは異なる、ATP結合ドメインを有する未知のタンパク質(約150 kDa)をコードし、葉原基や幼穂など分裂組織で特異的に発現し、イネ幼苗基部の分裂組織における縞葉枯ウイルスの濃度上昇を著しく抑制する(図2)。
- Stvb-iを保有する「St No. 1」(原品種)に比べ、RNAiによりStvb-iの発現を抑制したイネ(Stvb-i発現抑制系統、St507およびSt509)では、RSVの感染の有無によらず、生育が抑制される(図3)。Stvb-i発現抑制系統の草丈は、RSV感染によりさらに著しく抑制される(図4)。
- 以上から、Stvb-iは、イネの分裂組織の生育安定性に関与し、植物の良好な生育の維持に貢献する。その生育安定性のメカニズムにより縞葉枯病抵抗性(RSVによる生育阻害の軽減とRSV増殖の抑制)が生じていることが、抵抗性の持続性を支えていると考えられる。
成果の活用面・留意点
- Stvb-iによる抵抗性は今後も安定して本病の防除に持続利用が可能と考えられる。
- イネ縞葉枯病抵抗性育種におけるStvb-iの導入は、マーカー選抜が可能である(マーカーおよび選抜法に関する特許第3069662号および第5889626号)
- Stvb-i保有縞葉枯病抵抗性イネでは、縞葉枯ウイルスの増殖を完全に抑制されないため(早野 (2014) 関東東山病害虫研究会報、61:9-12)、抵抗性品種の発病株も感染源となる可能性があり、発生地域において感受性品種に隣接する圃場での利用には注意を要する。
具体的データ
その他