シソモザイクウイルスの遺伝的類縁関係ならびに媒介性および宿主範囲
要約
オオバ(青シソ)のモザイク病の病原体であるシソモザイクウイルスは、エマラウイルス属の新種ウイルスであるが、既知エマラウイルス15種が形成する3つのサブグループのいずれにも属さない。宿主範囲はシソ属に限られ、シソサビダニによる媒介は最短30分間の獲得吸汁で成立する。
- キーワード:Perilla mosaic virus (PerMV)、Emaravirus、シソ、エゴマ、シソサビダニ、媒介
- 担当:中央農業研究センター・病害研究領域・病害防除体系グループ
- 代表連絡先:
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
オオバの施設栽培で問題となるモザイク病は、シソモザイクウイルス(Perilla mosaic virus, PerMV)により引き起こされる。PerMVは、ゲノムの部分配列の類似性等から、Fimoviridae科Emaravirus属のウイルスと推定されるが、既知エマラウイルス種との遺伝的類縁関係や、宿主範囲、媒介性といった、検出および防除に必要な基盤情報が限られている。そこで、ウイルスゲノムの全塩基配列を解読し、既知種との類縁関係を明らかにする。また、PerMVの媒介虫であるシソサビダニによる獲得吸汁時間、保毒したシソサビダニの接種試験により宿主植物種の範囲および感染個体の病徴を明らかにする。
成果の内容・特徴
- PerMVは、他のエマラウイルスと同様に1本鎖(-)RNAをゲノムとし、エマラウイルスとして最多の10分節を有する(図1)。各分節は1つのタンパク質をコードし、ヌクレオキャプシドタンパク質をコードする分節を2種有する。P5は他のエマラウイルスとの配列類似性からRNAサイレンシングサプレッサーであることが推測されるが、P6a, P6b, P6c, P7は他のエマラウイルスを含む生物種にホモログが存在せず、機能は不明である。
- PerMVはタンパク質P1~P4の分子系統樹解析において、既報のエマラウイルス15種と同一のクレードに属するが、15種が構成する3つのサブグループのいずれにも属さない(図2)。
- 既報のエマラウイルスの媒介フシダニ種はすべてAceria属またはPhyllocoptes属であるのに対して、PerMVの媒介虫であるシソサビダニは、Shevtchenkella属である。
- PerMVは、シソサビダニにより最短30分の獲得吸汁により媒介される(表1)。媒介に必要な接種吸汁時間も30分以下である(結果省略)。なおシソサビダニの無保毒虫の接種では、モザイク病は生じない。
- PerMVの感染宿主は基本的にシソ属の4種(シソ[青シソ、赤シソ、エゴマ]、レモンエゴマ、セトエゴマ、トラノオシソ)に限られる(表2)。症状はオオバのモザイク病に似るが、濃紫色の赤シソでは感染していても認識できないことがある。
成果の活用面・留意点
具体的データ

その他
- 予算区分:交付金、競争的資金(イノベ創出強化)
- 研究期間:2011~2019年度
- 研究担当者:久保田健嗣、宇杉富雄、冨高保弘、栁澤広宣、千秋祐也、津田新哉、竹内繁治(高知農技セ)、広瀬拓也(高知農技セ)、森田泰彰(高知農技セ)、島本文子(高知農技セ)、清遠亜沙子(高知農技セ)、岡田知之(高知農技セ)、下元祥史(高知農技セ)、沖友香(高知農技セ)、下元満喜(高知農技セ)、中平知芳(高知農技セ)、下八川裕司(高知農技セ)、久家工人(高知中央東農振セ)、横山克郎(高知中央東農振セ)、山本正志(高知中央東農振セ)、谷岡賀子(高知中央東農振セ)、市川耕治(愛知農総試)、鈴木良地(愛知農総試)、田中はるか(愛知農総試)、天野淳二(愛知農総試)、松本祐保(愛知農総試)、恒川健太(愛知農総試)、武山桂子(愛知農総試)、堀川英則(愛知農総試)、伊藤涼太郎(愛知農総試)、大橋博子(愛知農総試)、後藤英世(大分農水研指導セ)、若月洋(大分農水研指導セ)、山崎修一(大分農水研指導セ)、姫野和洋(大分農水研指導セ)、田中啓二郎(大分農水研指導セ)、松本翔太(大分農水研指導セ)、上遠野冨士夫(法政大)、多々良明夫(法政大)、鍵和田聡(法政大)
- 発表論文等:
- Kubota K. et al.(2020)Phytopathology 110:1352-1361
- 鈴木ら(2019)関西病虫研報、61:31-35
Reprinted from Kubota K, Usugi T, Tomitaka Y, Shimomoto Y, Takeuchi S, Yanagisawa H, Chiaki Y, Kadono F, Tsuda S. 2020, Perilla mosaic virus is a highly divergent Emaravirus transmitted by Shevtchenkella sp., Phytopathology 110:1352-1361.