エマラウイルスを網羅的に検出できるディジェネレートプライマーセット

要約

エマラウイルス属ウイルスの保存配列領域をターゲットとするディジェネレートプライマーであり、RT-PCR法により、幅広い既知種を安定して検出できるほか、未知種探索の手がかりとして利用できる。

  • キーワード:Emaravirus、モチーフ、ディジェネレートプライマー、RT-PCR、ChMaV, PCLSaV
  • 担当:中央農業研究センター・病害研究領域・病害防除体系グループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

フシダニ・サビダニ類によって媒介されるエマラウイルス属ウイルスは、国内外の多様な作物に病害を引き起こす。エマラウイルスが発見された2007年以降、相次いで新種が報告され、現在では20種を超える。エマラウイルスを検出できる手法として、混合塩基を含むディジェネレートプライマーを用いたRT-PCR法が報告されているが(Elbeaino et al., 2013)、本プライマーは当時知られていた5種の配列を基に設計されているため、その後に報告された新種ウイルスの配列に対応していない。そこで、これらウイルスの配列をもとに、プライマーの標的領域および配列を再検討し、より網羅的に検出できるユニバーサルプライマーセットを開発する。また、本プライマーを用いて、フシダニ類の寄生が原因とされているウイルス様症状を示す植物から、エマラウイルスを探索し、未知種の検出可能性を評価する。

成果の内容・特徴

  • エマラウイルスのコードするタンパク質のアミノ酸配列のアラインメントから、RNA依存RNAポリメラーゼには保存性の高い領域(Pre-motif A, Motif F, Motif A-E)が存在し(図1)、なかでもmotif F, motif A, motif Bの配列保存性が高い(結果省略)。
  • 国内発生種のシソモザイクウイルス(PerMV)やイチジクモザイクウイルス(FMV)を含む9種(11アクセッション)のエマラウイルスの、motif F、motif A、motif Bをコードする塩基配列(図1、配列1~11)を元に、ディジェネレートプライマーを設計した(表1)。Pre-motif Aおよび motif Cを標的とする既報プライマーセット(#1, #2)と比較して、motif F, A, Bを標的とする新規プライマーセット(#3, #4)は、その後に報告された新種ウイルス9種(図1、配列12~21)に対してもミスマッチを全く示さず、また、縮重度を低く抑えられる(図1)。
  • RT-PCRによる検出は、サンプル葉から抽出したRNAをもとに、ランダムヘキサマーにより逆転写したcDNAを鋳型とする。次にディジェネレートプライマーを用いてPCRを行う。PCR反応の温度条件は、一例として(98°C 10秒、45°C 30秒、72°C 40秒)を40サイクルとする(論文を参照)。アガロースゲル電気泳動により、想定サイズのバンドの有無を検出し(図2)、シーケンス解析を行う。
  • エマラウイルス10種(国内産2、海外産8)のうち、プライマーセット#1, #2, #3, #4による検出可能種数はそれぞれ、8種、9種、10種、10種であり、#1, #2と比較して、#3, #4は特に日本産種を含めて安定して検出できる(結果省略)。
  • 本ディジェネレートプライマーによって、これまでキクモンサビダニ(Paraphytoptus kikus)の吸汁害とされてきたキクの紋々病、およびニセナシサビダニ(Eriophyes chibaensis)の関与が指摘されてきたニホンナシの退緑斑点症状の葉から、新種のエマラウイルスと考えられる配列が検出される(図2)。これらは後にchrysanthemum mosaic-associated virus (ChMaV)(仮称)およびpear chlorotic leaf spot-associated virus (PCLSaV)と命名された。

成果の活用面・留意点

  • フシダニ・サビダニ類が関与するウイルス様症状を示す葉からのエマラウイルスの探索に活用でき、既報プライマーと組み合わせることで、検出可能性が高まると考えられる。
  • ディジェネレートプライマーによる検出は、ワンステップRT-PCRでも可能である。

具体的データ

図1. エマラウイルスのRNA1上の配列保存領域(Motif)および塩基配列のアラインメント,表1.既報および本研究で開発したエマラウイルス検出用ディジェネレートプライマーセット,図2. ディジェネレートプライマーセット#1~#4を用いたRT-PCRの実施例(2%アガロースゲル電気泳動像)。

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(イノベ創出強化)
  • 研究期間:2011~2020年度
  • 研究担当者:久保田健嗣、千秋祐也、柳澤広宣、竹山さわな、宇杉富雄、冨高保弘、津田新哉、竹内繁治(高知農技セ)、広瀬拓也(高知農技セ)、森田泰彰(高知農技セ)、島本文子(高知農技セ)、清遠亜沙子(高知農技セ)、岡田知之(高知農技セ)、下元祥史(高知農技セ)、沖友香(高知農技セ)、下元満喜(高知農技セ)、中平知芳(高知農技セ)、下八川裕司(高知農技セ)、久家工人(高知中央東農振セ)、横山克郎(高知中央東農振セ)、山本正志(高知中央東農振セ)、谷岡賀子(高知中央東農振セ)、市川耕治(愛知農総試)、鈴木良地(愛知農総試)、田中はるか(愛知農総試)、天野淳二(愛知農総試)、松本祐保(愛知農総試)、恒川健太(愛知農総試)、武山桂子(愛知農総試)、堀川英則(愛知農総試)、伊藤涼太郎(愛知農総試)、大橋博子(愛知農総試)、後藤英世(大分農水研指導セ)、若月洋(大分農水研指導セ)、山崎修一(大分農水研指導セ)、姫野和洋(大分農水研指導セ)、田中啓二郎(大分農水研指導セ)、松本翔太(大分農水研指導セ)、上遠野冨士夫(法政大)、多々良明夫(法政大)、鍵和田聡(法政大)
  • 発表論文等:
    • 久保田・千秋 「ウイルス診断法」、特開2019-13169(2019年1月31日)
    • Kubota K. et al.(2021)J. Virol. Methods. 288:113992