雇用型経営における従業員の作業遂行マネジメント能力育成のポイント
要約
雇用型経営において、作業の進捗管理や業務改善などの作業遂行マネジメント能力を有する現場リーダーの育成には、従業員参加と情報共有の推進、個人目標に対するPDCAサイクルの推進、早期の権限移譲、定期的なフィードバックの4つの取組が有効である。
- キーワード:雇用型経営、作業遂行マネジメント、現場リーダー、情報共有、権限移譲
- 担当:北海道農業研究センター・水田作研究領域・経営評価グループ
- 代表連絡先:電話 029-838-8874
- 分類:普及成果情報
背景・ねらい
家族以外の人を従業員として雇用する雇用型経営においては、経営規模の拡大に伴って組織の階層化が進む傾向にある。そこでは、経営者がすべての意思決定に関与することは困難なことから、状況に応じた作業指示や要員配置といった進捗管理、および作業遂行に関わる問題発見と業務改善などの「作業遂行マネジメント」を従業員が担うことが求められている。しかし、雇用型経営の多くは本格的な組織運営の歴史が浅く、このような作業遂行マネジメント能力を有する現場リーダーの育成に関し、試行錯誤の段階にある。そこで、意識的に当該能力の向上に取り組み、複数の社員に作業の進捗管理を任せている成功事例に注目して、それら事例間で共通する取組内容を能力育成のポイントとして抽出する。
成果の内容・特徴
- 成功事例では、作業遂行マネジメントを作業別やエリア別等の複数の責任者が担っている(図1)。事例間で共通する能力養成に向けた取組は、1)従業員参加と情報共有の推進、2)個人目標に対するPDCAサイクルの推進、3)早期の権限移譲、4)定期的なフィードバック(業績評価に関する面談)、の4つである。
- 「従業員参加と情報共有の推進」は、農場運営に対する従業員の関心と関与を高め、作業遂行に関わる問題発見と業務改善に寄与する。「個人目標に対するPDCAサイクルの推進」は、個人目標の設定→行動→成否の検証→達成に向けた改善策の検討というPDCAサイクルを回すことを従業員に課すことであり、これにより作業遂行マネジメントで必要とされるPDCAサイクル的思考を従業員に浸透させる。
- 状況を踏まえた判断が求められる作業指示のような職務遂行能力の習得には、経験学習が有効であり、作業者としては必ずしも一人前ではなくても、「早期の権限移譲」を進めることで、作業遂行マネジメント能力の早期習得につながる。「定期的なフィードバック」は、責任者としての評価や今後伸ばすべき職務遂行能力を定期的に伝えることであり、職務上の行動内容の修正やモチベーションの向上に寄与する。
- 従業員の作業遂行マネジメント能力が養成されたことで、問題発見の迅速化と業務改善の進展に伴う収量品質の向上や作業時間の減少、作業遂行を従業員に任せることによる経営者層の販売業務や対外業務の充実などの効果が見られる(図2)。
- 経営者層が、これら4つのポイントに農場で取り組むことを支援するために、各成功事例の具体的取組内容を記載したパンフレットを作成している(図3)。
普及のための参考情報
- 普及対象:売上高1億円以上など組織の階層化が進む雇用型経営
- 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:本パンフレットは「農の雇用事業」に採択された農業法人向けの研修資料として活用される予定(約3,000経営体)。また、本研究の成果は、(一財)日本GAP協会作成の「ASIAGAP」の基準書(認証審査のためのチェックリスト)において、人材育成に関する審査チェック項目として採用されており、「ASIAGAP」認証取得経営体においても、本成果が活用される。
- その他:パンフレットはhttps://fmrp.dc.affrc.go.jp/でダウンロード可能。
具体的データ

その他
- 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)
- 研究期間:2011~2016年度
- 研究担当者:田口光弘、若林勝史、澤田守
- 発表論文等:田口ら(2016)フードシステム研究、23(3):253-258