北海道内の醸造用ブドウ栽培適域の将来予測

要約

温暖化予測データに基づくと、21世紀中ごろから後半にかけて北海道内の醸造用ブドウ栽培に適した気象条件の地域は、高標高の山岳地域を除く道内全域に拡大する。

  • キーワード:醸造用ブドウ、栽培適域、気候変動、地球温暖化
  • 担当:北海道農業研究センター・生産環境研究領域・寒地気候変動グループ
  • 代表連絡先:電話 011-857-9234
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

北海道では、以前は低温のために栽培が難しいとされていた欧州系醸造用ブドウの栽培が、近年盛んになってきている。その大きな原因の一つとして、温暖化の影響により北海道においても栽培適域が拡大してきたことが考えられるが、現在は実際に適切な気象条件であるのか否か、今後も適域は拡大していくのか、について検証を行う必要がある。そこで、温暖化予測データに基づき、過去から将来における、ブドウ栽培適域の変化を調べる。

成果の内容・特徴

  • 温暖化予測データは、長期変動の解析ではMIROC3.2 -hires(東大・国立環境研・地球環境フロンティア研究センターによる高分解能大気海洋結合モデル計算値)を気象庁平年値(1981-2010年)でバイアス補正したものを使用した。予測モデルにおける不確実性を調べる解析では、RECCA(文部科学省の気候変動適応研究推進プログラム)のマルチモデルデータセット(全球地上気温が2°C上昇した際の3つの全球気候モデル(GCM)と3つの領域気候モデル(RAM)の組み合わせによる9つのデータセット)を使用した。温室効果排出シナリオは全てA1B(すべてのエネルギー源のバランスを重視しつつ高い経済成長を実現する社会を想定)である。
  • 欧州系醸造用ブドウの栽培適温域の指標として、生育期間(4-10月)の平均気温(13.1°C?20.9°C)、降水量条件(生育期間の積算降水量が1200mm以下)、および冬季気温条件(冬季最低気温月平均値がマイナス15°C以上)を用いる。これらの基準は全て先行研究(Hannah et al. 2013)に基づく。
  • 降水量条件と冬季気温条件に適合し、生育期間の平均気温が13.1°C以上となる地域は、過去(1990年代)から現在(2010年代)において拡大する(図1)。将来(2050年代以降)は、栽培適域がさらに拡大し、降水量条件と冬季気温条件が制約となる地域は、北海道内の高標高の山岳地帯に限られる(図1の白域)。
  • 現在までの状況として、醸造用ブドウの主生産地では、2000年代以降気温の上昇傾向が著しく、現在は生育期間の気温が十分に適温域に入る(図2)。多くの生産地では、近年生産が盛んとなっている「ピノノワール」(適温域:14.0°C以上)や「シャルドネ」(同14.1°C以上)の栽培適温域に入る。
  • 全球気温が2°C上昇した将来では、多くの計算結果で山岳地域を除いて醸造用ブドウ栽培に適した気象条件となり、安定性が高い(図3)。山岳地域以外で制約となるのはほぼ降水量条件となる。

成果の活用面・留意点

  • ブドウ樹の寿命は20年以上と長く、将来を考慮した栽培品種選択に活用できる。
  • 今後の課題として、冬季の低温が厳しい北海道ではブドウ樹体を積雪面下に下げることで低温にさらされないようにして越冬させる技術が一般的に導入されているが、本研究では、この冬季の積雪深についての評価はしていない。また、一度発生すると致命的な被害を及ぼす遅霜の発生リスクについても、考慮していない。

具体的データ

図1 10年毎の生育期間(4-10月)平均気温の分布?図2 主要生産地域の生育期間気温の経年変動(10年毎の平均値)?図3 将来予測における栽培適域の判定結果の安定性

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2015~2016年度
  • 研究担当者:根本学、廣田知良、佐藤友徳(北大)
  • 発表論文等:
    1)Nemoto M. et al. (2016) J. Agric. Meteorol. 72:167-172
    2)広田ら(2016)生物と気象、16:D6-23