ジャガイモ黒あし病菌Dickeya dianthicolaの同定と特異的検出法

要約

1982-2016年にジャガイモ黒あし病発病株から分離されたDickeya属菌は細菌学的性状や各種遺伝子の塩基配列からD. dianthicolaである。得られた配列情報から新たに作製したプライマーを用いるPCR法により、D. dianthicolaを特異的に検出できる。

  • キーワード:種いも伝染性、細菌病、分子系統解析
  • 担当:北海道農業研究センター・生産環境研究領域・病虫害グループ
  • 代表連絡先:電話096-242-7762
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

近年、種いも生産現場において、塊茎や地際部の腐敗を引き起こす種いも伝染性細菌病害のジャガイモ黒あし病(以下黒あし病)の発生が報告されており、種いもの安定供給が脅かされる事態となっている。日本国内では、これまでジャガイモ黒あし病の病原細菌として4菌種(Pectobacterium carotovorum、P. carotovorum subsp. brasiliense、 P. atrosepticum、Dickeya sp.[Dsp])が記載されている。このうち、Dspは菌種の同定には至っていないため、分離細菌の細菌学的性状や各種遺伝子の塩基配列の解析を行い、菌種を同定するとともに、検出法を開発する。

成果の内容・特徴

  • 1982年以降2016年までに黒あし病発症株から分離されたDsp供試菌株は、グラム陰性、OF試験はF型で、ジャガイモ塊茎腐敗能を有し、King's B培地上で蛍光色素を産生せず、YDC培地上で青色色素を産生する。また、39°C条件下で生育せず、炭水化物や有機酸の利用能等の細菌学的性状はD. dianthicola(Ddi)の代表的な性状と一致する(表1)。
  • 供試菌株の16S rDNA領域、16S-23S IGS領域、ハウスキーピング遺伝子(recA、dnaX、rpoD、gyrB)の塩基配列は、データベース上に登録されている各Dickeya属細菌と、いずれも98%以上の相同性を示し、最尤法を用いた分子系統解析でもDdiと同一のクレードを形成する(図1)。
  • 以上の結果から、これまでに国内で黒あし病菌として分離されたDickeya属細菌は全てDdiと同定される。
  • 現在Dickeya属黒あし病菌検定用として使われているDickeya属菌汎用プライマー(ADE1/ADE2; Nassar et al.1996)を用いたPCR法を行うと、Dickeya属6菌種のいずれからも420bpの増幅産物が得られる(図2a)。
  • recA遺伝子の配列情報から作製したDdi特異的プライマー(dianthicola_recA_F1, 5′-TTGCTGTGTTCCCAGCCGGACACT-3′/dianthicola_recA_R1, 5′-GGATTGAAACAGGTTACCAGCCAA-3′)を用いてPCR法を行うと、Ddiでのみ216bpの増幅産物が得られる(図2b)。

成果の活用面・留意点

  • Ddiは、海外ではアメリカ、中国、オランダなどでジャガイモ黒あし病菌として報告があるが、日本においては初報告である。ジャガイモ以外では、カーネーション立枯細菌病菌とチコリー軟腐病菌として記載がある。
  • 国内未検出菌種であるD. paradisiacaD. solaniとの細菌学的性状の比較については未検討である。

具体的データ

表1 供試菌株の細菌学的性状;図1  供試菌株と黒あし病菌各菌種のハウスキーピング遺伝子塩基配列を用いた分子系統樹;図2 各種プライマーを用いたPCR法による電気泳動の結果

その他

  • 予算区分:競争的資金(農食事業)
  • 研究期間:2015~2017年度
  • 研究担当者:藤本岳人、安岡眞二(道総研)、中山尊登、青野桂之、大木健広
  • 発表論文等:Fujimoto T. et al. (2017) J. Gen. Plant Pathol. 84(2):124-136