Aspergillus versicolor Im6-50株によるジャガイモ粉状そうか病の発病抑制

要約

ジャガイモ根部から分離されたAspergillus versicolor Im6-50株を種いも接種して栽培することにより、ジャガイモ粉状そうか病の発病を抑制することができる。本菌はジャガイモ根圏に定着し、子いもや栽培後土壌からPCR法によって検出される。

  • キーワード:ジャガイモ粉状そうか病、Aspergillus versicolor、発病抑制
  • 担当:北海道農業研究センター・生産環境研究領域・病虫害グループ
  • 代表連絡先:電話011-857-9212
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

ジャガイモ粉状そうか病は、毎年北海道におけるジャガイモ栽培面積の約1割で発生が認められ、重要な生産阻害要因の一つである。本病に対しては、植付け前に殺菌剤の全面土壌処理による防除が行われるが、本研究では殺菌剤に依存しない低環境負荷型の防除技術の確立を目指し、本病に対する発病抑制効果を有する拮抗微生物を探索し、これを用いた生物的防除法の開発を行う。

成果の内容・特徴

  • 北海道内のジャガイモ栽培ほ場で採取した土壌でジャガイモを栽培後、その根部より分離された糸状菌Im6-50株は、形態的ならびに分子生物学的特徴よりAspergillus versicolorと同定される(図1および2)。
  • A. versicolor Im6-50株(以下、Im6-50株)は、菌体または胞子の種いも接種処理後に植え付けることにより粉状そうか病の発病を抑制する(表1)。圃場試験において、殺菌剤(フルアジナム水和剤)と比較すると発病抑制効果はやや劣るものの、菌体の1.4×108cfu/ml処理区の発病抑制効果は高い。
  • Im6-50株処理区のジャガイモ株で形成された子いもならびに栽培後土壌からDNAを抽出し、Im6-50株に対する特異的プライマーを用いたPCR法に供試すると、いずれの試料からもIm6-50株に由来する特異的増幅産物が検出される(図3aおよびb)。このことから、種いもに処理されたIm6-50株は、ジャガイモ根圏に定着し、粉状そうか病菌の根部感染抑制などを通じて、粉状そうか病の発病を抑制するものと推察される。

成果の活用面・留意点

  • Im6-50株による粉状そうか病発病抑制効果は、「男爵薯」を用いて、北海道内で採取した粉状そうか病菌を対象として確認したものである。
  • Im6-50株を用いた生物的防除法について引き続き検討を進めており、本菌株は農研機構遺伝資源センターより入手可能である(登録番号:MAFF140114)。
  • Aspergillus属糸状菌の中にはマイコトキシン生産能を有するものが認められるため、Im6-50株のマイコトキシン生産の有無について確認中である。

具体的データ

図1 Aspergillus versicolor Im6-50株の形態的特徴;図2 Aspergillus versicolor Im6-50株ならびに主なAspergillus属糸状菌のリボソームDNAのITS領域の塩基配列にもとづく分子系統樹MEGA version 6.06を用い、最尤法により作成した。Im6-50株以外の配列データはDDBJより取得して供試した。括弧内はアクセッション番号を示す。;図3 特異的プライマーを用いたPCR法によるAspergillus versicolor Im6-50株の子いもならびに栽培後土壌からの検出

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2004~2017年度
  • 研究担当者:中山尊登、佐山充、堀田光生、島貫忠幸
  • 発表論文等:Nakayama T. (2017) J. Gen. Plant Pathol. 83:253-263