米ぬか施用によるジャガイモそうか病の抑制機構の微生物学的解明

要約

ジャガイモそうか病対策として伝統的に行われている米ぬか施用において、米ぬかは根圏土壌の微生物相を変化させ、そうか病菌に拮抗的な放線菌群を増加させる。

  • キーワード:ジャガイモそうか病、米ぬか、根圏土壌、微生物多様性、拮抗菌
  • 担当:北海道農業研究センター・大規模畑作研究領域・大規模畑輪作グループ
  • 代表連絡先:電話011-857-9212
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

そうか病は国内のジャガイモ栽培において主要な病害であり、種いも処理などの対策は存在するが、土壌消毒などの根本的な対策は生産物の単価が比較的高い本州の一部の小規模な圃場を除いてとられていない。一方、鹿児島県の離島地域を中心とした九州地方では、ジャガイモそうか病対策の一つとして、米ぬか施用が民間レベルで伝統的に行われているが、米ぬか施用によるそうか病の抑制効果については、科学的に未解明である。そこで、米ぬか施用によるそうか病の抑制効果について科学的な検証を行い、その病害抑制機構を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • そうか病汚染圃場を用いた精密栽培試験において、種いも(品種「ニシユタカ」)の播種直前に生米ぬかを黒ボク土壌に全面施用(300kg/10a)し、ローターリー混和すると、そうか病の発病は軽減される(表1)。また、米ぬか施用は、塊茎形成期の根圏土壌においてStreptomyces属放線菌類を増加させ、着生した塊茎表面のそうか病菌密度を低下させる(表1)。
  • 米ぬか施用により、塊茎形成期(米ぬか施用後約1ヶ月程度)の根圏土壌中で、門レベルではAcinobacteriaの存在比が有意に増加し(表2)、土壌細菌相全体としてはグラム陽性細菌の存在比が大きく増加する。属レベルでは、特にBacillus属やStreptomyces属、Chitinophaga属、Actinomodura属の存在比が増加する(表2)。
  • 塊茎形成期の根圏土壌中の主要な菌群の中で、Streptomyces属の存在割合は収穫時の発病度と最も高い逆相関関係にある(スピアマンの順位相関係数:ρ=-0.902,p<0.001)。
  • 塊茎形成期のジャガイモ根圏土壌から網羅的に分離されたStreptomyces属菌株の大部分は、そうか病菌に対して拮抗性を示す(図1A)。
  • そうか病汚染圃場の米ぬか無施用区と施用区において、種いもに上記のStreptomyces属分離株を接種した栽培試験の結果、米ぬかの施用・無施用に関係なく強い抑制効果を示す菌株(ANA1906株)と、米ぬか施用との組み合わせにおいて抑制効果を示す菌株(ANA105・109・1007)が存在する(図1B)。

成果の活用面・留意点

  • 米ぬか施用によるジャガイモそうか病抑制法の科学的検証がなされたことで、本抑制法の全国的な活用を進める契機となる。
  • 今回の試験は一つの品種を用いた鹿児島県の黒ボク土圃場での結果であり、今後、他の品種や、土壌および気象条件等が異なる条件において、効果の検証作業が必要である。

具体的データ

図1 塊茎形成期のジャガイモ根圏土壌から分離されたStreptomyces属細菌によるそうか病抑制効果

その他

  • 予算区分:交付金、その他外部資金(SIP)
  • 研究期間:2013~2016年度
  • 研究担当者:池田成志、富濱毅(鹿児島県農開総セ)、西八束(鹿児島県農開総セ)、森清文(鹿児島県農開総セ)、白尾吏(鹿児島県農開総セ)、飯田敏也(理研)、埋橋志穂美(理研)、大熊盛也(理研)
  • 発表論文等:Tomihama T. et al. (2016) Phytopathology 106(7):719-728