圧雪による凍土の発達は融雪水の表面流出を促し硝酸態窒素の溶脱を抑制する

要約

寒冷な地域では、冬にトラクター等を用いた圧雪により土壌凍結深が圃場全体で均一に深くなる。これにより、融雪水の浸透が抑制されて表面流出し、土壌中の硝酸態窒素の溶脱が抑制され、前作に作土層に残留した硝酸態窒素が消雪後も表層付近に留まる。

  • キーワード:土壌凍結深制御、圧雪(雪踏み)、気候変動、融雪水の浸透、物質循環
  • 担当:北海道農業研究センター・生産環境研究領域・寒地気候変動グループ
  • 代表連絡先:電話011-857-9212
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

土壌凍結深の減少に伴い問題となっている、収穫もれしたバレイショが翌年に雑草化する野良イモに対して、畑を縞状に除雪する「雪割り」による土壌凍結深制御技術が道東地方で定着した(2012年度普及成果情報http://www.naro.affrc.go.jp/project/results/laboratory/harc/2012/210a3_01_44.html)。その後、土壌凍結深制御は、凍土が融雪水の浸透を抑制した影響の結果として生じる硝酸態窒素による地下水汚染を緩和する効果、および肥料成分の表層土壌への残留による春作物の増収効果を目的とした利用へ拡張されつつある(2017年度普及成果情報http://www.naro.affrc.go.jp/project/results/4th_laboratory/harc/2017/17_010.html、2017年度北海道・指導参考https://www.hro.or.jp/list/agricultural/center/kenkyuseika/gaiyosho/30/f2/12.pdf)。また、土壌凍結深制御の普及の過程で圧雪(雪踏み)が要素技術として新たに加わってきている。そこで、圧雪により土壌凍結を深くした場合の融雪水の表面流出量や硝酸態窒素の残留効果を評価する。

成果の内容・特徴

  • 農地の実態により即した評価を行うため、試験規模を従来の数m2程度のプロットスケールではなく、50a程度の農家圃場規模とする。
  • 圧雪処理による雪の密度増加に伴う熱伝導率の増加や積雪深の減少により、面積が大きい圃場でも土壌凍結深が圃場全体で均一に増加する。これに伴い土壌が完全に融解する日は、圧雪による凍結深の増大に伴い遅れるが、消雪日は対照区と圧雪区でほぼ変わらない。また、圧雪は融雪水の浸透を阻害せず、雪面で生じた融雪水は融雪期に速やかに地表面に到達する(データ省略)。
  • 年最大土壌凍結深が20cm程度であれば融雪水の表面流出はほぼ発生しないが,それ以上土壌凍結が発達した場合は融雪期後半に表面流出が生じる(図1、表1)。
  • 土壌凍結が発達せず融雪水のほとんど全てが地下に浸透する場合は、秋に表層に存在した硝酸態窒素が溶脱する(図2上)。圧雪により土壌凍結が発達した場合でも硝酸態窒素の溶脱は認められるものの、量的にわずかであり(図2下)、作土層(深さ30cmまで)には消雪後も硝酸態窒素含量の残留が認められる(表1)。
  • 融雪水の浸透量と消雪後の深さ30cmまでの土層に残存する硝酸態窒素の量の間には有意な負の相関関係がある(図3)。したがって、融雪期に一定量の積雪が認められる場合、(1)土壌凍結の発達により融雪水の浸透が抑制され、(2)表面流出が発生して融雪水が圃場の外に出ることで土壌への融雪水の浸透量が減少し、(3)硝酸態窒素の溶脱が抑制されることで、(4)圧雪により作土層への硝酸態窒素の残留が認められる。

普及のための参考情報

  • 普及対象:生産者、JA、コントラクター、普及組織
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:北海道オホーツク地方、十勝地方
  • 圧雪(雪踏み)を用いた土壌凍結深の制御による畑地の生産性向上(経済効果は数万円/haの増益見込み)に関する技術として本成果は活用できる。現時点で、農業現場で数百ha以上の実施があり、普及規模はさらに広がる見込みである。
  • その他:本成果は平均傾斜が1%程度の黒ボク土圃場における結果である。

具体的データ

図1 積雪水量(SWE)と対照区(CO)・圧雪区(SC)の表面流出量の推移(2012年融雪期),図2 根雪前(11月)と消雪後(5月)の硝酸態窒素含量の鉛直分布(2011~2012年)プロットは平均値±標準偏差を表す,図3 融雪水浸透量(融雪水量と表面流出量の差分)と消雪後の作土(0-30cm深)の硝酸態窒素含量の関係プロットは各年の各区の代表値を表す,表1 年最大土壌凍結深と積雪水量、表面流出量ならびに消雪後硝酸態窒素含量の年次変化

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2009~2018年度
  • 研究担当者:岩田幸良、柳井洋介、矢崎友嗣(明治大学)、廣田知良
  • 発表論文等:Iwata Y. et al. (2018) J. Hydrol. 567:280-289