泌乳持続性の遺伝的改良は泌乳中後期の乳中体細胞数を低下させる

要約

乳量の遺伝的能力が同程度の場合、泌乳持続性の遺伝的能力が高い個体は、乳房炎の管理指標である乳中体細胞数が低く、特に泌乳中後期で低い。このことから、泌乳持続性の遺伝的改良は泌乳中後期の乳中体細胞数の低減に効果がある。

  • キーワード:乳牛、乳中体細胞数、泌乳持続性、乳量、遺伝的能力
  • 担当:北海道農業研究センター・酪農研究領域・乳牛飼養グループ
  • 代表連絡先:電話011-857-9212
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

泌乳ピークを維持する能力である泌乳持続性の遺伝的改良は、SCCを下げる効果が指摘されている。生乳1mlに含まれる細胞数である乳中体細胞数(Somatic cell count; SCC (103/ml))は、酪農現場における乳房炎の管理指標である。SCCは乳房内の炎症反応により急増するため、低いことが望ましい。また、分母である測定時の乳量の高さが影響するため、泌乳最盛期に低く、乳量が低下する泌乳後期に高くなる。泌乳持続性の改良がSCC低減にもたらす効果も、乳量水準や泌乳ステージにより異なる可能性がある。そこで、泌乳持続性とSCCの関係について、個体の乳量水準や泌乳ステージを考慮して検証する。

成果の内容・特徴

  • 牛群検定に参加している全国の初産から3産の泌乳牛を、産次ごとの乳量(分娩後305日間の累積乳量)および泌乳持続性の遺伝的能力(育種価)により、それぞれ低水準、平均、および高水準にグループ分けし、分娩後305日間のSCCの平均値(平均SCC)を比較する(図1;2産次を例示)。同じ乳量の遺伝的能力水準において、泌乳持続性の遺伝的能力が平均および高水準の区分は、低水準よりも平均SCCが低い。このことから、どの乳量水準においても、泌乳持続性の遺伝的改良はSCCを下げる効果がある。
  • 同じ乳量の遺伝的能力水準における各分娩後日数のSCCを比較する(図2;2産次の乳量の遺伝的能力が平均の水準を例示)。泌乳持続性の遺伝的能力が平均および高水準の区分は、低水準よりも分娩後100日以降のSCCが低い。このことから、泌乳持続性の遺伝的改良は、特に泌乳中後期のSCC低減に効果がある。

成果の活用面・留意点

  • 家畜改良事業団等の乳牛改良関係団体が泌乳持続性の遺伝的改良を普及する際の参考情報として活用できる。
  • 本成果で用いた乳量および泌乳持続性の遺伝的能力(育種価)は、2005年~2014年に分娩した初産次約114万頭、2産次約93万頭、3産次約66万頭の検定日乳量記録および血縁情報を用いて推定した。本成果は、これら育種価を基準とした各水準おけるSCCの泌乳曲線(分娩後日数にともなう推移)に基づく結果である。
  • 同じ乳量レベルでは、泌乳持続性のレベルにより乳期ごとの日乳量が異なるが、SCCと乳量水準および泌乳持続性水準との関係は、日乳量の影響を補正しても同じである。

具体的データ

図1 2産次の乳量と泌乳持続性の遺伝的能力が異なる水準における平均乳中体細胞数(平均SCC),図2 2産次の乳量の遺伝的能力が平均の水準で泌乳持続性の遺伝的能力が異なる水準における各分娩後日数の乳中体細胞数(SCC)

その他

  • 予算区分:交付金、その他外部資金(27補正「先導プロ」、28補正「AIプロ」)
  • 研究期間:2016~2018年度
  • 研究担当者:山崎武志、武田尚人、山口茂樹(家畜改良事業団)、田鎖直澄
  • 発表論文等:山崎ら(2019)日畜会報、90(1):13-21