温暖化の季節的偏りが北海道のジャガイモの収量を減少させている

要約

近年の北海道のジャガイモの単位面積当たり収量の減少は、2010年以降の7~9月の高温が原因である。また、春季の気温が上昇しないため萌芽が早まらない一方、夏季の気温は上昇して生育が早期に停止するため、生育期間が短期化して収量が減少する。

  • キーワード:ジャガイモ、収量、気候変動、温暖化適応、太平洋十年規模振動
  • 担当:北海道農業研究センター・大規模畑作研究領域・気象情報利用グループ
  • 代表連絡先:電話011-857-9212
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

30年前には、日本のジャガイモの単位面積当たり収量は、世界トップの水準であった。近年は、世界の主産国の単位面積当たり収量は増加傾向にあるのに対し、日本の収量はやや減少傾向にある。ジャガイモの主産地は、北海道東部の十勝地域とオホーツク地域で、全国のジャガイモ生産量の8割を占める。そこで、十勝地域とオホーツク地域における品種・作業時期の変化とともに、数十年の気候変動に着目した解析を行い、ジャガイモ収量を減少させる要因を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 1986年から2014年の収量について、フリーソフトRのプログラム関数(strucchange)により変化点の検出を行ったところ、十勝地域・オホーツク地域共通で、2009年に減少の変化点がある(図1)。オホーツク地域は、澱粉原料用ジャガイモの栽培が多く、高収量型品種「紅丸」から高澱粉品種「コナフブキ」へ変更した1990年代後半にも、収量減少の変化点がある。
  • 平均気温は、夏季(7~9月)には、2010年に増加に至る変化点がある。一方、春季(4~6月)は、変化が見られない(図2)。2000年以降、太平洋の海水温の十数年周期の変化(太平洋十年規模振動:PDO)に伴い、世界的に冬季より夏季の高温傾向が強まっていることが原因で、北日本で春季の気温は上昇せずに夏季の気温のみが上昇するという、季節的偏りのある温暖化が生じている。
  • 春季の高温は生育開始を早め、夏季の高温は生育の停止に繋がる。夏季(7~9月)特に8月・9月の高温で収量は減少する(図3)。春の高温年には、萌芽が過度に早まり、大規模な遅霜被害が発生する場合(1998年など)があるため、ジャガイモの収量は、春季より夏季の温度に対する依存性が高い。
  • 1984年~1990年と2006年~2014年を比べると、土地改良や大型機械の導入に伴い、地域の植付日は約6日早まっているが、春季の気温が上昇していないため、萌芽日の前進は約1日に留まる(表1)。植付けを早期化しても、萌芽が早まらず、生育期間が長くならないため、夏季の高温の回避策にはならない。

成果の活用面・留意点

  • 解析に用いたジャガイモの収量データは、農林水産省作物統計の市町村統計値を用いている。品種ごとの収量を反映しない。
  • 気候変動により、新たな変化点が生じる可能性がある。今後、春季の気温の上昇に伴い、降霜期間が早期に終了する場合、早期植付けが夏季の高温の回避策の一つとなる。

具体的データ

図1 1986年~2014年の収量と変化点,図2 1986年~2014年の平均気温と変化点,図3 1986年~2014年の収量と気温の月平均・3か月平均値の相関係数,表1 1984年~1990年と2006年~2014年の道東地域平均の植付日と萌芽日

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2014~2018年度
  • 研究担当者:下田星児、菅野洋光、廣田知良
  • 発表論文等:Shimoda S. et al. (2018) Agri. For. Met. 263:147-155