拡張された土壌凍結深制御体系を実装した情報システム

要約

土壌凍結深制御の手段として雪割りと雪踏みを採用し、野良イモ対策に加え、土壌理化学性を改善する技術体系を構築する。情報システムをオホーツク・十勝地域のJAに実装することで、両地域で生産者自らによる作業判断を可能とする。

  • キーワード:土壌凍結深制御、雪踏み(圧雪)モデル、技術マニュアル、情報システム
  • 担当:北海道農業研究センター・生産環境研究領域・寒地気候変動グループ 大規模畑作研究領域・気象情報利用グループ
  • 代表連絡先:電話 011-857-9212
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

雪割り(圃場内機械除雪)による土壌凍結深制御は、十勝地方では野良イモ対策として普及し、オホーツク地方では、これに雪踏み(圃場内機械圧雪)も加えて土壌理化学性(砕土性向上、土壌窒素の溶脱抑制等)の改善効果でタマネギや畑作物(移植テンサイ、ダイズ等)の生産性向上に発展している。雪踏みでの野良イモ防除は、土壌移動リスクが少なくシストセンチュウ対策に長所を有し、また、バレイショの後作物で最も作付けのある小麦でも適用可能である。このため、雪踏みについても雪割りと同様に、現場に安定的に適用できる情報システムの開発が望まれている。また、野良イモ対策の小麦への適用では後小麦への悪影響のリスクを最小限に抑えることが求められている。加えて、重粘土地帯の飼料用トウモロコシや直播テンサイへの対象の拡大や秋期の耕起方法が土壌凍結に及ぼす影響などの技術的な知見も求められている。そこで、これらの課題に対応するために、土壌凍結深制御の技術拡張を図り、より高度化した情報システムを構築する。

成果の内容・特徴

  • 雪踏み後の積雪深は積雪水量保存則に基づいて計算を行う。この計算方式は雪踏み時における積雪深を必要としない。この方式により、雪割りと同様に雪踏み作業日を入力できれば雪踏み後の積雪深を推定できる。土壌凍結深は土壌の熱的パラメータセットをオホーツクと十勝の地域毎に整備し、気温と積雪深の日値を入力するモデル(2002年成果情報)から土壌凍結深を6.8cm(全体)(無処理区で6.1cm、雪踏み区では7.2cmの誤差(RMSE)で推定できる(図1)。
  • 積雪深が浅い20cm以下の条件で秋まき小麦に対して雪踏みをすると、無処理区に比べ収量が低下する事例がある。主な原因は作業機の踏圧による小麦茎葉の損傷であり、これを避けることで、雪踏み施工の小麦収量は無処理区と同等となる(図2)
  • 秋まき小麦圃場に雪踏みをすると、土壌無機態窒素含量、小麦子実のタンパク質含量が上昇する傾向にある(データ省略)。
  • 直播テンサイに対する雪踏みにより、最大土壌凍結深30cm以深で砕土率は向上する。一方、春期の地温上昇の遅れから初期生育を遅延させる。糖量への影響は明瞭ではないものの、雪踏み区の収穫時期の地上部/地下部の幹部重量比は高い傾向にあるため、雪踏みによる減収リスクがある(データ省略)。
  • 重粘土圃場での雪踏みは、窒素溶脱抑制効果は明瞭ではないが、土壌物理性改善効果が認められる事例があり、20cm以深まで効果が発現した圃場で飼料用トウモロコシの収量が増加する(表1)。したがって、重粘土への雪踏みは土壌物理性を改善し生産性の向上に寄与できる。
  • 秋期耕起の有無や耕起法の違いは、土壌凍結深制御による土壌理化学性改善効果の発現に影響しない(プラウ耕、心土破砕後プラウ耕、プラウ耕後スプリングハロー耕と無耕起処理の比較で確認、データ省略)。
  • 雪踏みによる土壌凍結深制御は、雪割りと共にオホーツクと十勝の農協の情報システ ムに搭載し(図3)、技術マニュアルおよび情報システムマニュアルを整備、これにより両地域で生産者自らによる土壌凍結深制御が可能な体制となる。

普及のための参考情報

  • 普及対象:生産者、JA、コントラクター、普及組織
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:(北海道オホーツク地方、十勝地方)雪割り・雪踏みの実施面積は十勝地方の5300haに加え、オホーツク地方では3600haに達している。情報システムは、十勝地方では十勝農協連により十勝管内の各JAに情報発信される。オホーツクでは当初計画されていたJAきたみらいばかりでなくオホーツク農協連によりオホーツク全体を対象とした運用へ拡張される予定である。
  • 野良イモ対策における省力化効果は、夏期農繁期の人力での作業から冬の農閑期への機械作業の移行でかつ作業効率は人力の防除による数十時間/haから冬の1~数時間/ha作業となり、作業時間が数十分の1に大幅に効率化される。費用対効果は野良イモ対策で数万~10万円/haの節減、畑地の生産力向上については、砕土性向上による作業性改善で数千円/haの節減、作物の増収効果は移植テンサイ、ダイズ等の畑作物で数万円/ha、タマネギで20万円/ha以上の増益見込みとなる。
  • 目標凍結深は各作物とも30cmとする。過度な凍結は春期の地温上昇の遅れや作土の乾燥の遅延を生じるリスクがある。
  • 未凍結土壌での雪踏みや雪割りの実施は、土壌の練り返しリスクを伴うため、特に秋まき小麦畑では避ける。春以降作付けする圃場で実施する場合は、あらかじめ、トラクターのカラ走りでの雪踏み等により凍結深5cm以上を目安に凍結を入れて、その後、本格的な雪割りや雪踏みを実施する。
  • 本システムは最大土壌凍結深の推定を目的としたものであり、融雪・融凍時期の推定には用いない。
  • 土壌凍結深制御技術の適用拡大と技術体系化 北海道農業試験会議(成績会議)(2020)、指導参考事項

具体的データ

図1 雪踏み(圧雪)モデルの年最大土壌凍結深の計算結果の検証(オホーツク・十勝地方),図2 秋まき小麦圃場の雪踏み1回目施工時の積雪深、凍結深と小麦収量の関係,表1 雪踏みが重粘土圃場の土壌物理性と飼料用とうもろこしの収量に及ぼす影響 (18/19年、現地圃場),図3 JAきたみらい(左)と十勝農協連(右)に実装された圧雪(雪踏み)による土壌凍結深の情報システム

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(イノベ創出強化)
  • 研究期間:2017~2019年度
  • 研究担当者:
    廣田知良、小南靖弘、下田星児、金谷真希、小野寺政行(道総研農業研究本部)、奥村理(道総研農業研究本部)、中辻敏朗(道総研農業研究本部)、五十嵐俊成(道総研農業研究本部)、須田達也(道総研農業研究本部)、石倉究(道総研農業研究本部)、笛木伸彦(道総研農業研究本部)、庄子隆文(JAきたみらい)、畠山重文(JAきたみらい)、前塚研二(十勝農協連)、小川ひかり(十勝農協連)
  • 発表論文等:
    • S. Shimoda, and T. Hirota (2018), Agri. For. Meteorol. 262: 361-369
    • 道総研農業研究本部(北見農試,十勝農試),農研機構北農研,JAきたみらい,十勝農協連(2020),土壌凍結深制御による野良イモ防除,土壌理化学性改善技術体系化マニュアル
    • JAきたみらい(2020) JAきたみらいWebサイト土壌凍結深推定計算システム操作マニュアル
    • 十勝農協連(2020) 土壌凍結促進技術と土壌凍結深制御システムマニュアル