種ばれいしょ生産における国内主要ジャガイモウイルス4種の省力的な検定法

要約

簡易RNA抽出法と1ステップマルチプレックスRT-PCRを組み合わせた検定法であり、主要ジャガイモウイルス4種(PLRV,PVS,PVX,PVY)を同時に検出できる。本検定法は、ELISA法に比べ、作業工程が少なく、同等以上の検出感度であり、種ばれいしょ検定の省力化と高度化が可能である。

  • キーワード:簡易RNA抽出、1ステップマルチプレックスRT-PCR、ウイルス、植物検疫
  • 担当:北海道農業研究センター・生産環境研究領域・病虫害グループ
  • 代表連絡先:電話 011-857-9212
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

種ばれいしょは、植物防疫法における指定種苗であり、「ジャガイモウイルス」が検疫対象病害となっているため、同法で定められた検査の合格基準を満たす必要がある。国内既発生のジャガイモウイルス12種のうち、主要なウイルスはジャガイモ葉巻ウイルス (PLRV)、ジャガイモSウイルス (PVS)、ジャガイモXウイルス(PVX)及びジャガイモYウイルス (PVY)の4種である。農研機構種苗管理センターでは、培養苗から原原種までの全ての増殖段階において、全ウイルスを対象として病徴観察や汁液接種の病理学的な手法で検定を実施しているが、特に重要である主要なウイルス4種に対しては病理学的な手法に加えてELISA法による検定を行っている。しかし、ELISA法では1つの反応で複数のウイルス種を同時検出できないため、ウイルス種ごとにウェルやプレートを作製しなければならず、検定に多くの労力を要することが課題となっている。そこで、多検体に対応可能な簡易RNA抽出法と1ステップマルチプレックスRT-PCRによる主要ジャガイモウイルス4種の同時検出技術を組み合わせた省力的な検定法を開発、普及させることで課題の解決を図る。

成果の内容・特徴

  • 本検定法では、検定試料の磨砕液から、ろ紙片による吸着、洗浄、熱処理による溶出という簡便な操作のみで迅速にRNAを抽出でき、遠心機や有機溶剤を必要としない(図1)。
  • 既報のプライマーと新規に設計したプライマーを用いる1ステップマルチプレックスRT-PCRにより、主要ジャガイモウイルス4種の国内既発生系統は全て検出できる(表1)。国内未発生系統についても、データベース上のゲノム配列を用いて検出可能であることを確認している。さらに、内部標準遺伝子(EF1α)を同時に検出することにより、偽陰性を識別できる。
  • 本検定法は、現場で実施されている集団検定をモデルとした試験の結果、ウイルス罹病葉1枚を含むジャガイモの葉10枚の試料からウイルス4種の同時検出とウイルス種の診断が可能である(図2)。
  • 本検定法の検出感度は、ELISA法と比較し、PVSは同等、それ以外のウイルス3種は10倍以上である。そのため、ウイルス濃度の低い試料からも検出可能であり、検定の高度化が期待できる。
  • 本検定法は、ELISA法よりも作業工程が少なく、所要時間も短いため省力的である(図3)。また、ELISA法では連続して作業を行う必要があるが、本検定法では抽出したRNA溶液やRT-PCRの産物を保存して断続的に作業を行えるため、少ない作業時間でも効率的に検定を実施できる。
  • 本検定法は、4種のジャガイモウイルス用ELISAキット(Agdia)を用いた場合と同程度のコストで実施できる。

普及のための参考情報

  • 普及対象:農研機構種苗管理センター、植物防疫所、育種団体、種ばれいしょ生産団体、研究機関
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:農研機構種苗管理センター(検定数8.7万塊茎/年)に加え、各団体による自主的なウイルス病検定
  • その他:

具体的データ

図1 簡易RNA抽出法(左)と1ステップマルチプレックスRT-PCR(右),表1 1ステップマルチプレックスRT-PCRで使用するプライマー,図2 集団検定を想定したモデル試験,図3 本検定法(上)とELISA法(下)の作業工程の比較

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2018~2019年度
  • 研究担当者:小野塚信哉、大木健広
  • 発表論文等:Onozuka N. et al. (2020) J. Gen. Plant Pathol. doi: 10.1007/s10327-020-00923-5