北海道の乾田直播水稲の雑草防除時期判断支援を目的とした水稲出芽始予測法

要約

北海道の乾田直播水稲の出芽始を、播種日と日平均気温から推定した日平均地温を用いて予測する手法である。予測した出芽始が実際の出芽始より遅くならないよう予測モデルのパラメータが調整されており、雑草の初期防除としての非選択性除草剤散布日程の検討に有効活用できる。

  • キーワード:乾田直播水稲、雑草防除、出芽、北海道、予測法
  • 担当:北海道農業研究センター・生産環境研究領域・寒地気候変動グループ
  • 代表連絡先:電話 011-857-9257
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

経営規模の拡大に伴い北海道で導入が進む乾田直播では、雑草の初期防除としてイネの出芽前に非選択性除草剤を散布するが、イネの出芽後は散布が不可能となることから、除草剤散布日程の検討に必要な出芽始日の予測に対し、実際の出芽始から遅れることなく、かつ、正確に出芽始を予測する方法の開発が求められている。そこで、本研究では乾田直播水稲の出芽始を、農研機構メッシュ農業気象データ等により入手した気温データから、実際の出芽始めからの遅れを抑制しつつ予測する方法を開発する。

成果の内容・特徴

  • 本手法の特徴は、播種から出芽までを2分してそれぞれ異なる基準温度を用いる有効積算地温モデル(図1)を用いていること、出芽始の推定値が実測値よりも遅れることを避けるため、モデルのパラメータを調整する方法(次項)を用いていることである。
  • 有効積算地温モデルのパラメータの最適化に用いるSimplex法による最小二乗法において、最小化の対象となる目的関数である「推定値と実測値の差の二乗の総和」の算出において、出芽始の推定値が実測値より遅いデータは、差の二乗値をさらに100倍することで、推定値が実測値より遅くなることをほぼ避けられる(図2)。
  • 日平均気温からの日平均地温の推定式は簡易かつ比較的推定精度の高い既存の次式を採用した。

    Tsn = α・Tsn-1 + (1-α)・Tan + β

    ここで、TsnとTanはそれぞれn日(nは通日)の日平均地温(°C)と日平均気温(°C)、αとβはパラメータである。北海道石狩地域から南空知地域の乾田直播圃場の日平均地温は、α=0.27、β=1.10にて推定できる(データ略)。なお、地温の初期値には気温を代用するが、気温と地温の違いの影響は10日ほどで解消するので、計算開始日は播種日の10日以上前とする。
  • 本予測方法は、北海道石狩地域(札幌市)および南空知地域(岩見沢市、栗山町)で取得した13例の乾田直播水稲の出芽始データに対し、日平均地温の実測値を用いた場合にはRMSE(二乗平均平方根誤差)で2.70日、かつ予測の遅れは2例のみで、出芽始めを推定できる(図3a)。
  • 実測の地温が入手できない等により、日平均気温から推定した地温を用いた場合でも、推定誤差(RMSE)2.00日、かつ予測の遅れも1例のみで出芽始を推定が可能である(図3b)。

成果の活用面・留意点

  • 乾田直播圃場における、非選択性除草剤散布スケジュールの検討に活用できる。
  • ICTを活用した栽培管理支援や意思決定支援システムに応用できる。
  • 出芽始予測モデルのパラメータは、品種「大地の星」および「ほしまる」の、乾モミ播種を対象とする。
  • 日平均気温による日平均地温推定式のパラメータは北海道石狩地域と南空知地域を対象とする。
  • 推定精度の評価に用いた日平均地温、日平均気温は共に確定値である。温度データに予報値を用いた場合、出芽始の予測精度は温度データの予測誤差の影響を受ける。

具体的データ

図1 乾田直播水稲の出芽始予測のための有効積算地温モデル,図2 出芽始の予測の遅れを抑制するパラメータ調整法の効果,図3 作成した出芽始予測法による出芽始の推定精度

その他

  • 予算区分:その他外部資金(29補正「経営体プロ」)
  • 研究期間:2016~2019年度
  • 研究担当者:濵嵜孝弘、根本学
  • 発表論文等:濱嵜、根本(2020)生物と気象、20:49-54