道内未経産牛における性選別精液の初回授精受胎率は7-8月に低下しやすい

要約

乳用雌牛の計画的な作出を可能とする性選別精液の利用が普及している。7月~8月における道内未経産牛の初回授精受胎率の低下幅は、通常精液よりも性選別精液のほうが大きい。

  • キーワード:性選別精液、乳牛、受胎率、未経産牛、授精月
  • 担当:北海道農業研究センター・酪農研究領域・乳牛飼養グループ
  • 代表連絡先:電話 011-857-9212
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

酪農家が乳生産を持続するためには、現存する泌乳牛から生まれる雌牛を次世代の泌乳牛(後継牛)として確保する必要がある。X染色体を持つ精子を高純度で選別した凍結精液(以下、性選別精液)を優秀な泌乳牛へ人工授精することにより、優れた後継牛を計画的に作出することが可能となる。性選別精液は、従来の未選別精液(以下、通常精液)より受胎率が20-30%落ちることが報告されている。そのため、受胎率の高い未経産牛(初産前の乳用雌牛)への利用が推奨されている。
乳用牛の受胎率は暑熱の影響で低下するため、通常精液の人工授精による受胎率は夏季に低下することが知られている。受胎率に対する授精季節の影響は、性選別精液と通常精液とで異なる可能性がある。そこで、北海道内の未経産牛に対する初回授精記録より、国内乳用種雄牛の性選別精液および通常精液の使用本数や受胎率の動向を把握するとともに、性選別精液の初回授精受胎率に対する授精季節(授精月)の影響を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 国内種雄牛の性選別精液を道内未経産牛の初回授精に使用する本数は年々増加し、2014年以降は通常精液より多い(図1)。2016年の通常精液および性選別精液の初回授精受胎率は、それぞれ59.4%および49.0%であり、2012年よりもそれぞれ3.9ポイントおよび6.2ポイント向上している(図2)。
  • 北海道において、性選別精液の7月~8月の授精による初回授精受胎率の低下幅は、通常精液より有意に大きく、通年平均より3~4ポイント低下する(図3および図4)。

成果の活用面・留意点

  • 家畜人工授精事業体、家畜人工授精師、獣医師および酪農家が乳用種雄牛の性選別精液を使用する際の参考情報として活用できる。
  • 本成果は、牛群検定に加入する北海道内の未経産牛に対して2012年~2016年に実施された国内通常精液41,857回および性選別精液45,465回の初回授精成績を用いた。授精月ごとの受胎率の分析には、授精年、授精時月齢、授精月、精液種(通常または性選別)、精液種雄牛、授精時月齢と精液種の交互作用および授精月と精液種の交互作用を考慮した一般線形モデルおよびロジスティック回帰モデルを用いた。
  • 本成果は、未経産牛の統計データであり、経産牛は別途検討する必要がある。

具体的データ

図1 道内未経産牛への初回授精における国内乳用種雄牛精液使用本数の年次推移,図2 道内未経産牛への初回受精における国内乳用種雄牛精液受胎率の年次推移,図3 道内未経産牛への初回授精における国内乳用種雄牛精液の授精月ごとの受胎率,図4 道内未経産牛への初回授精における国内乳用種雄牛精液の授精月ごとの受胎率

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2017~2019年度
  • 研究担当者:山崎武志、及川康平(北海道大学)、山口諭(北海道酪農検定検査協会)、阿部隼人(北海道酪農検定検査協会)、唄花子(北海道大学)、高橋昌志(北海道大学)、川原学(北海道大学)
  • 発表論文等:Oikawa K. et al. (2019) Theriogenology 135:33-37