水稲品種「きたくりん」に由来するいもち病抵抗性遺伝子Pi-cd

要約

イネ品種「きたくりん」に認められるいもち病抵抗性'強'は第11染色体上のいもち病抵抗性遺伝子Pi-cdが制御する。この遺伝子領域は熱帯ジャポニカ系統群に広く分布する。

  • キーワード:イネ、いもち病抵抗性遺伝子、熱帯ジャポニカ
  • 担当:北海道農業研究センター・作物開発研究領域作物素材開発・評価グループ
  • 代表連絡先:電話 029-838-7930
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

昨今の世界的な気候変動により作物栽培における病害虫被害のリスクが高まっている。日本国内の稲作において、いもち病は最大の病害である。そのため、抵抗性遺伝子を活用する品種開発は、生産コストおよび環境負荷の低減に最も効果的である。既に多くのいもち病抵抗性遺伝子が分子遺伝学的に同定され、DNAマーカー選抜は品種開発の促進に活用されている。
いもち圃場抵抗性検定試験では、現在の品種育成に利活用されているイネ品種「きたくりん」は抵抗性"強"、「ほしのゆめ」は抵抗性"弱"と区分される。本研究では「きたくりん」に認められるいもち病抵抗性に着目し、まずいもち病抵抗性に関するQTL解析を行い、さらに高精度DNAマーカーを開発するため、Pi-cd領域のゲノムシーケンス情報を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 「きたくりん(抵抗性"強")」と「ほしのゆめ(抵抗性"弱")」の交雑F2世代を用いたQTL解析により、「きたくりん」は第11染色体上に座乗する新規いもち病抵抗性遺伝子Pi-cdを持つ(図1)。DNAマーカー型といもち病抵抗性程度に基づいて品種育成系譜を辿ると、Pi-cdは「キタアケ」と「大地の星」に存在する。
  • 実験室内におけるいもち病菌葉鞘接種試験では、接種後48時間においていもち病抵抗性遺伝子Pi-cd非保有品種「ユーカラ」では菌糸の生育が認められるが、Pi-cd保有品種「キタアケ」では菌糸の発芽が認められない(図2)。
  • いもち病抵抗性遺伝子Pi-cd保有品種「きたくりん」と非保有品種「ほしのゆめ」のゲノムシーケンスを比較すると、いもち病抵抗性遺伝子Pi-cd近傍特異的に一塩基多型が多数分布している (図3)。
  • Pi-cd遺伝子領域のゲノムシーケンスを詳細に比較解析すると、いもち病抵抗性遺伝子Pi-cdの表現型に対応する遺伝子変異が存在する。すなわち、「きたくりん」はKT型、「ほしのゆめ」はNP型である。KT型遺伝子変異は熱帯ジャポニカ系統群に特異的に分布している(表1)。品種育成系譜を辿ると、KT型遺伝子変異は「Cody」(アメリカ合衆国)から品種育成系統群に導入されていると示される。

成果の活用面・留意点

  • いもち病抵抗性遺伝子Pi-cd型に特異的な遺伝子領域の変異(KT型)を対象とすることで高精度なDNAマーカー選抜を行える。
  • いもち病抵抗性遺伝子Pi-cdの抵抗性機作の解明により、既知のいもち病抵抗性遺伝子とPi-cdを集積する高度ないもち病抵抗性をデザインできる。

具体的データ

図1 いもち圃場抵抗性検定における病斑,図2 いもち病菌の葉鞘接種,図3 いもち病抵抗性遺伝子Pi-cd近傍に特異的な一塩基多型の分布Pi-cdは第11染色体に座上する,表1 遺伝的に異なる3集団におけるH-cd遺伝子型の分布

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2013~2019年度
  • 研究担当者:
    藤野賢治、平山裕司(道総研)、小原真理、池ヶ谷智仁、品田博史(道総研)、山本俊央、佐藤博一(道総研)、山本英司、堀清純、米丸淳一、佐藤毅(道総研)
  • 発表論文等:
    • Fujino K. et al. (2019) Theor. Appl. Genet.132:1981-1990
    • Shinada H. et al. (2015) Breed. Sci. 65: 388-395