北海道の水田での中干し・間断灌漑は水稲収量を維持しつつメタン排出を削減する

要約

寒冷な北海道の水田においても、中干し・間断灌漑を含む水管理を適切に行うことにより、温室効果ガスのメタン排出が削減され、水稲の収量も慣行の常時湛水管理と同等のレベルに維持される。

  • キーワード:間断灌漑、水田、水稲収量、中干し、北海道、メタン
  • 担当:北海道農業研究センター・生産環境研究領域・土壌管理グループ
  • 代表連絡先:電話 011-857-9212
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

これまでの研究により、水田土壌から排出される温室効果ガスであるメタン(CH4)が、中干しや間断灌漑による一時的な落水によって効果的に削減されることが明らかになっている。
寒冷な北海道の水田では、水稲の障害型冷害のリスクを避けるため、中干しや間断灌漑は行わず湛水を継続するのが一般的であるが、冷害に耐性を持つ水稲品種の開発等により、北海道における水稲の冷害の発生頻度は近年減少する傾向にある。このことから、北海道においても、中干しや間断灌漑を含む水管理を適切に導入することによって、水稲の収量を維持しつつCH4の排出を削減できる可能性があるが、既往の研究はほとんどない。
本研究では、北海道の水田において3年間の水稲圃場栽培試験を行い、中干し・間断灌漑の導入がCH4排出量、水稲収量等に与える影響を評価する。

成果の内容・特徴

  • 中干し・間断灌漑を導入した圃場(間断区)のCH4フラックスは、中干し以降、常時湛水管理の圃場(湛水区)よりも低い値で推移する(図1)。中干し以降、間断区の土壌酸化還元電位は湛水区よりも高く、また間断区の土壌二価鉄濃度は湛水区よりも低い値で推移することから(データ省略)、間断区では落水期間に土壌中に酸素が供給されることによってCH4生成が抑制されることが示される。
  • 水稲栽培期間の積算CH4排出量は、間断区で湛水区よりも低い値であり、21~91%削減される。最初の落水(中干し;6月下旬)を10日以上の長い期間とすることにより、より高いCH4排出削減効果となる(表1)。
  • 直前2年間に湛水・水稲栽培履歴のない年のCH4排出量は、他の年と比べて大幅に低くなる(表1)。このことは、田畑輪換を含む適切な輪作体系を組むことが、作物の生産性維持だけでなく環境負荷低減の観点からも推奨されることを示している。
  • 他の温室効果ガスである一酸化二窒素の排出量について、湛水区と間断区とで有意な差はない(データ省略)。
  • 湛水区と間断区とで水稲収量に有意な差はなく(表2)、北海道の水田においても本州以南と同様に、中干し・間断灌漑を適切に導入することにより、水稲収量を維持しつつ温室効果ガス排出を効果的に削減できる。

成果の活用面・留意点

  • 北海道石狩地域の試験水田圃場において、品種「ななつぼし」を3年間移植栽培した試験の結果である。
  • 水稲の障害型冷害のリスクが想定される天候の推移(幼穂分化期の著しい低温・日照不足、等)である場合には、中干し・間断灌漑の導入は慎重に検討する必要がある。

具体的データ

図1 水稲栽培圃場におけるCH4フラックス経日変化の例,表1 水稲栽培期間の積算CH4排出量,表2 水稲収量

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2016~2018年度
  • 研究担当者:西村誠一、君和田健二、八木岡敦、林怜史、岡紀邦
  • 発表論文等:Nishimura S. et al. (2020) Soil Sci. Plant Nutr. 66(2):360-368