水田の耕作放棄後の生態系炭素貯留量は外来種侵入の有無に依らず一旦減少後増加する

要約

西日本の水田生態系に貯留する炭素量は、耕作停止後に一旦減少する。炭素量が回復するまで約15年かかり、その後増加に転ずる。外来種のセイタカアワダチソウが優占する場合、在来植物の二次遷移により地上部の炭素貯留量は大きいが、生態系全体の炭素貯留効果は同程度に過ぎない。

  • キーワード:土地利用変化、植生遷移、炭素貯留、温暖化緩和策
  • 担当:北海道農業研究センター・大規模畑作研究領域・気象情報利用グループ
  • 代表連絡先:電話 011-857-9212
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

土地利用変化により生態系炭素貯留量は変動する可能性がある。農地では、世界的な耕作放棄面積の拡大が注目されているが、炭素変動量の評価は定まっていない。また、植生の二次遷移過程が炭素変動量に及ぼす影響は、ほとんど議論されていない。セイタカアワダチソウは、日本の水田放棄地で多く見られる外来種で、世界中の耕作放棄地に広がっており、地上部炭素量が急速に増加するため、生態系炭素貯留量の変動に及ぼす影響を注視する必要がある。
水田の耕作放棄地における、生態系炭素貯留量の経年変化を示す。地上部・地下部の炭素量変化と共に、枯死した植物体(植物残渣)も、炭素貯留に寄与するため、植生と土壌を分けて生態系炭素量の構成を示し、二次遷移の影響を評価する。

成果の内容・特徴

  • 西日本の13県37箇所で、対照となる水田と耕作放棄地が隣接する平坦な地点において、土壌と植物体を含む生態系炭素量の比較を行い、水田と耕作放棄地の炭素量の差を耕作放棄後の変動量として評価した。国土地理院地図・空中写真閲覧サービスより、耕作と耕作放棄が確認された年の中間年を耕作放棄年として、耕作放棄期間を評価した。各地点の耕作放棄年数と炭素変動量の関係について、平滑化スプライン回帰で推定する(図1)と、地上部乾物量(a)と新鮮有機物を反映する比重<1.6の土壌(e)は、放棄年数に対し有意な相関は無かった。地下部乾物量(b)と表層堆積物(c)の炭素量は、放棄年数が長くなるほど増加した。土壌炭素量は、一旦減少し、回復するまで約15年かかり(d)、放棄後約30年後に生態系炭素の増加量は最大10 Mg C/haに達する。生態系全体では、炭素量の回復まで約13年かかる(f)。
  • 土壌炭素量が多い地点は、耕作放棄後の炭素量の幅が大きくなる。放棄年数が短い場合に炭素量が大きく減少し、放棄年数が長い場合に大きく増加する(図2)。土壌炭素量が大きい圃場は、機械作業ですき込まれた水田残渣由来の炭素を多く含むが、放棄後の乾燥化に伴う有機物の好気的分解により炭素量が大きく減少する。一方、年数が経過し、放棄後に繁茂する植生に由来する炭素供給量が増加すると、より多く炭素が生態系に貯留可能になると考えられる。
  • 外来種のセイタカアワダチソウは、地上部乾物量を増加させる。在来種の優占圃場に比べて、地上部炭素量は大きいが、表層堆積物や地下部の炭素量は少ないため、生態系全体の炭素量は同程度に過ぎない(表1)。

成果の活用面・留意点

  • 耕作放棄後に伴う温室効果ガス排出・吸収量の経時変化の算定に活用できる。
  • 耕作放棄圃場には、草刈り管理・耕起管理などを行った休耕状態の圃場と、管理を行わない耕作放棄状態の圃場の両方を含む。
  • 土壌炭素を評価する土の量は、水田の土壌深さ0~30cmの土壌の重量を基準としている。
  • 調査時に、地上部乾物の割合が最も多い種を優占植生としており、放棄後の二次遷移の履歴は不明である。

具体的データ

図1 耕作放棄に伴う土壌炭素量の時系列変化,図2 水田と耕作放棄地の土壌,表1 外来種(セイタカアワダチソウ)優占圃場と在来種優占圃場の生態系炭素の変化量

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(温暖化適応・異常気象対応)
  • 研究期間:2010~2014年度
  • 研究担当者:下田星児、和穎朗太
  • 発表論文等:Shimoda S. and Wagai R. (2020) Ecosystems 23, 617-629