北海道空知型4年4作の省力的水田輪作栽培体系技術

要約

空知型4年4作(移植水稲-大豆-小麦-乾田直播水稲)の水田輪作栽培体系において、移植水稲では無代かきの疎植栽培等、乾田直播水稲では前年整地等の技術を導入すると、省力化や大豆収量向上により、大規模経営体の輪作実施可能面積と所得が増加する。

  • キーワード:水田輪作、水稲乾田直播栽培、疎植栽培、自動操舵田植機、無代かき、前年整地
  • 担当:北海道農業研究センター・水田作研究領域・水田輪作体系グループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

北海道空知地域は古くからの稲作地帯で小麦・大豆への転作が進められてきたが、これら品目の連作・交互作の連作障害による減収が問題となってきている。また近年、生産者の高齢化・後継者不足から農地集約が進み、規模拡大にともなう労働力不足も大きな課題となってきている。これら状況を改善するため病害虫の抑制や地力改善が期待される田畑輪換を取り入れている。さらに省力化と収益向上のため、本研究では、北海道空知地方で取り組まれている4年4作(移植水稲→大豆→秋小麦→乾田直播[乾直]水稲)の水田輪作体系に省力・高収量の技術を新たに導入し、大規模経営体への効果について明らかにすることを目的とする。

成果の内容・特徴

  • 本成果で提案する4年4作水田輪作体系は移植水稲(疎植栽培)-大豆(水稲無代かき後栽培)-大豆間作小麦-乾直水稲(前年整地・気象情報活用初期除草)である(かっこ内は北農研で開発した要素技術)(図1)。
  • 移植水稲栽培では無代かきの疎植栽培により、減収や玄米品質(玄米タンパク、整粒歩合)の低下のリスクを抑えつつ省力的に水稲を栽培することが可能である。慣行栽培と同程度の収量、産米品質を維持可能な栽植密度は約15株/m2(株間20cm、初期生育が良好な場合)または約18株/m2(初期生育が良好でない場合)である。疎植栽培の必要苗箱数は慣行よりも2~3割減少する。さらに、市販の直進自動操舵田植機を導入しても、コスト増が抑えられる。
  • 無代かき水稲栽培後の大豆栽培では、代かき水稲栽培後の場合と比較して、個体数や粒数、100粒重、莢数が増加し、3年間の平均収量は411kg/10aで代かき水稲後と比べ約17%増加した(表1)。
  • 乾直水稲栽培を行う前年度の秋に、小麦収穫後・積雪までに整地(耕起・均平)する「前年整地」により、春先の農繁期作業が分散される。泥炭土におけるモデルケースでは、慣行に比べて春の整地作業時間が、圃場内の高低差を示すマップを作成した場合は5割弱、高低差マップ無しの場合でも3割弱削減され、均平機1台が春季10日間で作業できる負担面積も拡大する(表2)。
  • 播種日と日平均気温の気象情報による乾直水稲栽培での出芽日予測法で、様々な品種の出芽日を予測することが可能となり、出芽前に非選択性除草剤による雑草初期防除を計画的に行うことができる。
  • 常勤6名の実証経営体(協業法人)では、これらの要素技術を組合せた4年4作水田輪作体系が73.1ha(各作物18.3ha)実施可能と推計され、慣行輪作体系と比較して6.7ha(10.2%)増加する。実施可能面積の増加と無代かき水稲栽培後の大豆収量の増加により、所得が18.7%増加する(図2)。

普及のための参考情報

  • 普及対象:北海道空知地域の小麦・大豆転作に取り組む水稲生産者(経営面積30ha以上)
  • 普及予定地域・普及予定面積:北海道空知地域において3,000ha(現在は推定約750ha)。

具体的データ

図1  4年4作空知型輪作体系とその要素技術,表1 無代かき・代かき水稲栽培後の大豆の収量および収量構成要素,表2 前年整地および高低差マップを導入した作業体系と慣行体系の作業時間・負担面積の比較,図2  要素技術の導入による4年4作水田輪作の実施可能面積及び所得の変化

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(収益力向上)、その他外部資金(H28補正「経営体プロ」)
  • 研究期間:2016~2020年度
  • 研究担当者:中村卓司、林怜史、鮫島啓彰、房安功太郎、八木岡敦、長南友也、吉田晋一、濱嵜孝弘、根本学、杉戸智子、渋谷幸憲
  • 発表論文等:
    • 林ら (2017) 日作紀、86:129-138
    • Samejima H. et al. (2020) Plant Prod. Sci. DOI:10.1080/1343943X.2020.1828948
    • 長南ら (2019) 農研機構研究報告 北農研、207:51-78
    • 濱嵜ら (2020) 生物と気象、20: 49-54