短紙筒狭畦移植機と自走式多畦収穫機等を用いたテンサイの狭畦栽培

要約

本狭畦栽培は、短紙筒狭畦移植機、自走式多畦収穫機等を用い支援組織が行う。1年間に1台で移植機は60ha、収穫機は移植栽培と直播栽培を合わせて140haの作業が可能である。慣行の移植栽培に比べて糖量が14%向上し、収穫物当たり生産コストの低下と、輪作の適正化に効果がある。

  • キーワード:自走式多畦収穫機、短紙筒狭畦移植機、直播栽培、テンサイ、輪作の適正化
  • 担当:北海道農業研究センター・大規模畑作研究領域・大規模畑輪作グループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

テンサイ移植栽培の投下労働時間は14h/10a前後であり、育苗から移植までの投下労働時間が全体の約40%を占める。このため、4月下旬から5月上旬の労働競合が大きく、テンサイの作付面積が減少する要因となっている。この時期のテンサイ生産に、3割軽量な短紙筒苗の利用、直播栽培や短紙筒対応6畦移植機の導入、組織による作業支援を行い、軽労化と省力化による労働競合の緩和を図る必要がある。あわせて、テンサイの多収化と安定化にむけた狭畦栽培の導入と、これらを収穫する自走式多畦収穫機を活用したテンサイの生産技術の体系化をはかる必要がある。そこで、本研究では自走式多畦収穫機および短紙筒移植機を導入したテンサイの生産を生産組織が行う際の作業能率・収量等を明らかにし、栽培上の注意点を抽出するとともに技術導入時の生産費等を示す。

成果の内容・特徴

  • 提案するテンサイ生産技術は直播栽培、移植栽培共に狭畦密植栽培(条間50cm・栽植密度を8000本/10a以上)とし、移植栽培は短紙筒苗(筒の長さ10cm)を用いる。短紙筒狭畦移植機を用いた定植と、自走式多畦収穫機を用いた収穫を行い、収穫機はヘッダのスカルパをフィラーホイール式に改造した日本仕様を用いる。上記の作業のうちテンサイの定植、収穫作業は生産支援組織が行う。また、直播栽培の播種、生育期間中の管理、移植栽培の育苗は生産者が行う。
  • 短紙筒狭畦栽培の糖量は、育苗期間をおよそ6週間とし5月14日以前に定植することで、従来栽培を14%上回る(表1)。
  • 開発した短紙筒狭畦移植機の1日当たり可能な作業量は4ha(実作業時間9.33h/日、作業速度2.82km/h、作業幅3m、圃場作業効率51%)、1年間に1台当たり約60haの定植が可能である(図表省略)。自走式多畦収穫機は作業速度4.4km/h(3.3~5.1km/h)、圃場作業効率は52%(48%~57%)で、1時間当たりの作業量は0.69ha(0.49~0.86ha)、実作業率は83%で(表2)、1日に6.3haの作業が可能であり、約23日間で140haの収穫が可能である。
  • 改造した自走式多畦収穫機は10kgfから15kgfの引抜き抵抗が小さいテンサイ(移植・直播とも)でも、収穫ロス0.5%未満で収穫が可能である(図表省略)。
  • 作業料金を定植作業10千円、収穫作業14千円としたとき、10aあたりの生産費は、移植栽培、直播栽培ともに新技術と従来技術とは概ね同等であるが、新技術により多収化することを前提とすると生産物当りの生産費は新技術が従来技術を移植栽培で13%、直播栽培で7%下回る(表3)。
  • 将来、経営耕地面積が10%増加する条件に労働力の減少が加わる条件を想定し、輪作作物の作付面積と所得を試算すると、テンサイ生産が従来技術のままでは、春季の労働競合によりコムギの作付面積が増加し、労働力が現行と変わらない条件の所得は現行と概ね同等、労働力が0.5人減る(構成員の1名がセミリタイア)条件では所得は現状を下回る。一方、新技術を利用すると、労働競合の緩和により輪作の維持・適正化が可能となり、所得は現状を上回ると試算される(図1)。

普及のための参考情報

  • 普及対象:道東畑作地帯におけるテンサイ生産者、糖業および生産支援組織、普及指導機関。
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:
    北海道の畑作地域R2年度は試験栽培も含めて350haで作業を実施。R6年度までに1000ha
  • その他:短紙筒狭畦移植栽培用の移植機は2020年4月以降受注を開始し、2021年の春作業には使用が可能である。販売価格は1400万円を予定している。

具体的データ

表1 育苗期間の異なる短紙筒狭畦栽培のテンサイ収量,表2 2018年の自走式多畦収穫機の作業性,表3 従来技術と新技術のテンサイ生産費の比較,図1 法人の所得および輪作作物の作付面積にテンサイ新技術が及ぼす影響(経営耕地面積が10%増加する場合の試算値)

その他

  • 予算区分:交付金、その他外部資金(28補正「経営体プロ」)
  • 研究期間:2016~2020年度
  • 研究担当者:藤田直聡、辻博之、有岡敏也(JAつべつ)、奥山哲夫(日本甜菜製糖)、今村城久(サークル機工)
  • 発表論文等: