糖含量が高くTDN収量の多いオーチャードグラス中生品種「えさじまん」
要約
オーチャードグラス中生品種「えさじまん」は、北海道から北東北で「ハルジマン」より多収である。糖含量は「ハルジマン」より3ポイント高く、TDN収量が多く、サイレージ発酵品質は良好である。すじ葉枯病罹病程度は「ハルジマン」より低い。
- キーワード:オーチャードグラス、糖含量、TDN収量、サイレージ、産乳量
- 担当:北海道農業研究センター・作物開発研究領域・飼料作物育種グループ
- 代表連絡先:
- 分類:普及成果情報
背景・ねらい
北海道と東北の基幹イネ科牧草であるオーチャードグラスは、再生力と環境耐性に優れるが飼料品質が低下する場合があり、飼料品質の改良が求められている。イネ科牧草の糖を始めとする水溶性炭水化物(WSC)は、その含量が高まることで、家畜の消化性やサイレージの発酵品質が向上することが知られている。そこで、オーチャードグラスのWSC含量を高めた品種を育成し、自給飼料の品質向上を図る。
成果の内容・特徴
- 出穂始日は6月2日で、標準品種「ハルジマン」と同じ"中生の晩"である(表1)。
- 年間合計乾物収量は、北海道から東北の各場所において、「ハルジマン」より多収~並みで、全場所平均では「ハルジマン」比104%で、やや多収である(図1)。年間合計TDN(可消化養分総量)収量は「ハルジマン」比109%と多収である(表1)。
- WSC含量は、各番草ともに「ハルジマン」より約3ポイント高く、年間平均では「ハルジマン」より3.3ポイント高い(図2)。
- 中性デタージェント繊維(NDF)含量は、「ハルジマン」より低く、第一胃内乾物消失率は「ハルジマン」より高い(表1)。推定TDN含量は、「ハルジマン」より約2ポイント高い(表1)。サイレージ調製の実規模試験では、Vスコアは89で発酵品質は良好である(表1)。
- 越冬性と早春の草勢は、「ハルジマン」よりやや優れる(表1)。耐寒性は、"中~やや弱"、雪腐病に対する耐病性は"中"である(表1)。
- すじ葉枯病に対する耐病性は、罹病程度がは「ハルジマン」より低いことから、優れる(表1)
- 倒伏程度は「ハルジマン」よりやや大きいが、発生程度は小さく、実用上問題はない(表1)。
- 放牧において、年間を通して「ハルジマン」より採食量が多く、年間合計採食量は「ハルジマン」より30%多い(表1)。
- 「えさじまん」の1番草サイレージを主体とするTMR(混合飼料)を搾乳牛に給与した場合、「ハルジマン」給与に比べて乾物摂取量が5%多く、産乳量が4%多い(図3)。
普及のための参考情報
- 普及対象:酪農家、繁殖および肥育農家、TMRセンター等外部支援組織。
- 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:北海道と東北北部の7500ha。
- その他:
採草利用を主体に、放牧利用および採草放牧兼用にも利用できる。雪腐病に対する耐病性は「ハルジマン」より劣るが、地域適応性検定試験における各地の越冬性と1番草収量から判断して、越冬について実用上問題はない。種子は、雪印種苗(株)より2021年4月から販売されている。
具体的データ

その他
- 予算区分:交付金、委託プロ(国産飼料、自給飼料)
- 研究期間:2000~2020年度
- 研究担当者:
眞田康治、田瀬和浩、田村健一、山田敏彦、高井智之、秋山征夫、梅村和弘、谷津英樹(雪印種苗(株))、横山寛(雪印種苗(株))、高山光男(雪印種苗(株))、佐藤駿介(雪印種苗(株))、高橋強(雪印種苗(株))、柴山草太(雪印種苗(株))、本間満(雪印種苗(株))、秋山翔平(雪印種苗(株))、納多春佳(雪印種苗(株))、影浦隆一(雪印種苗(株))、玉江宗大(雪印種苗(株))
- 発表論文等:
- 眞田ら「えさじまん」品種登録第25796号(2017年3月15日)
- 眞田ら(2020)農研機構研究報告、4:17-40
- 眞田(2019)畜産技術、796:20-24