ジャガイモシロシストセンチュウの緊急防除対策技術

要約

ジャガイモシロシストセンチュウ発生圃場において、くん蒸剤(1,3-ジクロロプロペン油剤)処理を2回、捕獲作物(トマト野生種「ポテモン」)栽培を1回実施することにより、線虫密度を検出限界以下にできる。

  • キーワード:ジャガイモシロシストセンチュウ、バレイショ、くん蒸剤、捕獲作物、緊急防除
  • 担当:北海道農業研究センター・生産環境研究領域・線虫害グループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

2015年8月に北海道網走市においてジャガイモシロシストセンチュウ(以下Gp)の発生が国内で初めて確認された。2016年秋以降、Gpのまん延防止を目的として植物防疫法に基づく緊急防除が開始され、土壌くん蒸剤の処理および捕獲作物(対抗植物)の栽培による防除が実施されることとなった。しかし、捕獲作物として利用予定のトマト野生種Solanum peruvianum「ポテモン」によるGp防除効果は未解明であるうえ、北海道内でも冷涼なオホーツク海沿岸地域において十分に生育し、効果を発揮しうるか不透明である。また、くん蒸剤についても低地温により土壌中での蒸散が不十分となり、必要な効果が得られない懸念があることから、それぞれを検証・確認する必要がある。さらに緊急防除では、Gp密度を速やかに検出限界以下に低減させることが求められている。そこで、本研究では現地Gp発生圃場において土壌くん蒸剤(1,3-ジクロロプロペン油剤、以下D-D剤)処理と捕獲作物(トマト野生種「ポテモン」)栽培によるGp密度低減効果を明らかにするとともに、これらの技術を組み合わせてGp密度を検出限界以下にする防除体系を確立することをねらいとした。

成果の内容・特徴

  • 土壌くん蒸剤(D-D剤40L/10a)処理は、土壌中のGp密度を処理前の平均7.0%に低下させることができ、Gpに対する防除技術として有効である(図1-A)。くん蒸剤の効果は処理層(地表下15~20cm)より深い地表下30~40cmの層でも有効である(図1-B)。なお、麦収穫後や捕獲作物すき込み後の土壌は、植物残渣が多くなり土壌消毒の効果を低下させる可能性があるため、事前に残渣を深くすき込むなどの対策が必要となる。
  • 網走市Gp発生ほ場における捕獲作物(トマト野生種「ポテモン」、播種量320g/10a、6月中旬から60日間栽培)の生育量は草高61.7±7.2cm、地上部乾物重462±119g/m2(2017年調査の7ほ場平均値)で、道央地方(草高70.8cm)や道南地方(地上部乾物重310g/m2、但し播種量460g/10a)における生育と同等である。栽培後のGp密度は平均して栽培前の11.6%に低下し、非寄主栽培・裸地休耕(同66.2%)と比較しても密度低減効果が高く、Gp防除技術として有効である(図1-A)。
  • Gp 発生ほ場では、非寄主作物の輪作体系で、土壌くん蒸剤処理2回と捕獲作物栽培1回を組み合わせた3回防除を実施することにより、ほとんどのほ場でカップ検診法、ふ化促進物質法のいずれでもGpが検出されなくなる(表1)。輪作体系を考慮し、最短でGpを検出限界以下に導くための防除実施体系を図2に示す。これにより、2~3年で検出限界以下への低減を達成できる。
  • 土壌くん蒸剤処理、捕獲作物栽培にかかる標準的な労力と経費の試算を表2に示す。図2の防除体系を実施した場合の合計経費は120,600円/10aである。この他に土壌消毒機や播種機、トラクター、洗車機等の導入が必要となる。

普及のための参考情報

  • 普及対象:行政機関、普及指導機関、バレイショ生産者。
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:北海道オホーツク地域約1,000ha。
  • その他:2019年度の北海道農業試験会議において指導参考成果として採択され、すでに北海道と対象地域の農協には普及済みである。

具体的データ

図1 D-D剤処理、捕獲作物栽培によるGp密度低減効果,表1 2018年防除終了後の149ほ場のシストセンチュウの残存状況,図2  Gp密度を短期に検出限界以下に導くための防除実施体系例,表2 D-D剤処理および捕獲作物栽培の実施にかかる労力と経費

その他

  • 予算区分:交付金、その他外部資金(レギュラトリーサイエンス)
  • 研究期間:2016~2019年度
  • 研究担当者:
    伊藤賢治、奈良部孝、小野寺鶴将(道総研北見農試)、紀井親浩(北海道農政部)、坂田至、酒井啓充、串田篤彦
  • 発表論文等:
    • 伊藤ら(2017)北日本病虫研報、68:160-163
    • 伊藤ら(2020)北農、87:281-289