Dickeya chrysanthemiによるジャガイモ黒あし病の発生

要約

2017年に北海道後志地方のばれいしょ生産ほ場で発生したジャガイモ黒あし病の病原細菌は、Dickeya chrysanthemiである。本細菌が黒あし病を引き起こすことは初知見である。

  • キーワード:種いも伝染性、細菌病、病原追加
  • 担当:北海道農業研究センター・生産環境研究領域・病虫害グループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

近年、種ばれいしょ生産現場において、種いも伝染性細菌病害であるジャガイモ黒あし病(以下黒あし病)が頻発しており、種ばれいしょの安定供給が脅かされる事態となっている。黒あし病の主な病徴は、種いもの腐敗、株元の黒変腐敗、茎葉の萎れである。2017年に北海道後志地方で発生した黒あし病発病株から分離された細菌菌株は、発生時点で日本国内の黒あし病の病原細菌として記載されていた4菌種(Dickeya dianthicolaPectobacterium atrosepticumP. wasabiaeP. carotovorum subsp. brasiliense)に該当しなかった。黒あし病の病原菌種同定及びその整理は種いもの健全性を担保するために行われる発生予測技術、検出・診断法、必要な防除技術への応用や開発に重要であるため、本細菌種の同定を行う。

成果の内容・特徴

  • 2017年に北海道後志地方で発生した黒あし病の発病株から分離された11菌株(SD17-1 ~ 11)は、PCR法による検定の結果からDickeya属菌であるが、D. dianthicola(Ddi)ではないと判断される(図1)。
  • 分離菌株を健全な種いもに浸漬接種して栽培すると、原病徴である種いもの腐敗、株元の黒変腐敗、茎葉の萎れが再現される(図2)。本菌の病徴は黒あし病原因菌である4菌種(D. dianthicolaP. atrosepticumP. wasabiaeP. carotovorum subsp. brasiliense)の病徴と区別することはできない。
  • 分離菌株の各種表現型はD. chrysanthemi(Dch)の性状とほぼ一致する(表1)。
  • 分離菌株の16S rDNA領域、16S-23S ITS領域、ハウスキーピング遺伝子(recAdnaXrpoDgyrB)の塩基配列は、データベース上に登録されているDch菌株の各遺伝子の配列と、いずれも98%以上の相同性(E-valueはいずれも0)を示し、最尤法を用いて作成した分子系統樹においても、データベース上のDchと同一のクレードを形成する(図3)。
  • 以上の結果から、2017年に北海道後志地方で発生した黒あし病の病原細菌はDchと同定される。
  • 本分離菌株を含むDchは、既報(Van der wolf et al., 2014)のTaqManプローブ(DchryF: 5'- CGATTTCCCGGCAAGTGT-3', DchryR: 5'-TGGCAAAAGGGCTGAATTG-3', DchryP: 5'- CGCCGTCACTCCC-3')を用いたリアルタイムPCR法により特異的に検出できる(データ省略)。

成果の活用面・留意点

  • Dchのばれいしょからの検出は国内初報告である。
  • 海外では、アメリカ、スペインでDchによるジャガイモの茎葉腐敗の報告があるが、種いもの腐敗や株元の黒変を伴う病徴の報告はない。
  • Dchによる黒あし病の発生について、種ばれいしょ生産現場に広く周知を行い、種ばれいしょ生産現場における黒あし病検査体系にDchを含める。

具体的データ

図1 PCR法による分離菌株の検定結果,図2 北海道後志地方で発生した黒あし病発病株の病徴(左)と同株由来の分離菌株の種いも接種による株元の黒変腐敗症状の再現(右)病徴部を黄矢印で示す,表1 供試菌株の各種表現型,図3  供試菌株とDickeya属各菌種のハウスキーピング遺伝子recAならびにdnaXの塩基配列を用いたMultilocus sequence analysis法による分子系統解析結果

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2017~2019年度
  • 研究担当者:藤本岳人、安岡眞二(道総研)、中山尊登、青野桂之、大木健広
  • 発表論文等:Fujimoto T. et al. (2020) J. Gen. Plant Pathol. 86, 423-427