乳用雌牛の初回授精受胎率は放牧とその他の飼養形態とで遺伝的能力の優劣が変わる

要約

乳用雌牛の分娩後初回授精受胎率は、放牧主体で発現する遺伝的能力の優劣がタイストールおよびフリーストールと異なる。飼養形態ごとの遺伝的能力評価により、放牧飼養牛群の繁殖能力改良に適した種雄牛の評価が可能となる。

  • キーワード:乳用牛、受胎率、遺伝と環境の相互作用、飼養形態、放牧
  • 担当:北海道農業研究センター・酪農研究領域・乳牛飼養グループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

日本における乳用雌牛の飼養形態は、タイストールなどで1頭1頭をつなぎ飼いする形態(以下、タイストール)が主流である。近年、酪農家一戸当たりの飼養頭数の増加に伴い、フリーストールなどで放し飼いする形態(以下、フリーストール)が増加している。また、北海道など、広い放牧地が確保できる地域では、放牧を中心とした飼養管理(以下、放牧主体)も行われている。このように、我が国では乳用雌牛の飼養形態が多様であることから、様々な飼養形態で高い生産性を発揮する乳用牛へ遺伝的に改良することが必要である。
乳用雌牛が高い乳生産性を発揮するためには、受胎と分娩を繰り返すことが必要であるため、高い繁殖能力(受胎できる能力)が求められるが、繁殖能力は、遺伝的能力の発現が飼養環境によって異なる現象である「遺伝と環境の相互作用」の大きい可能性が指摘されている。遺伝と環境の相互作用が大きい場合、飼養環境によって発現する遺伝的能力が異なるため、飼養環境を考慮したデータ収集や遺伝的能力の評価を行うことで改良の効率を高められる可能性がある。我が国では、繁殖能力を高めるための選抜指標として、分娩後初めての人工授精による受胎の成否(以下、初回授精受胎率)の遺伝的能力を評価している。本研究では、北海道の酪農家へ実施した飼養管理方法に関するアンケート結果および牛群検定記録を用いて、初回授精受胎率における遺伝と酪農家の飼養形態との相互作用を調べることにより、我が国の繁殖能力における遺伝と環境の相互作用の程度を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 2012年実施の飼養管理方法に関するアンケート結果に基づき、北海道の乳用牛群検定加入農家を搾乳牛の飼養形態についてタイストール、フリーストール、および放牧主体に分類すると、タイストールに分類される酪農家数は全体の69%を占める(図1)一方、分類した酪農家における2008年~2014年分娩の初産次頭数はフリーストールが最も多く、54%である。
  • 初産牛28万頭、2産牛25万頭、および3産牛18万頭について算出した分娩後305日間累積乳量は、フリーストールで多く、放牧主体で少ない(図2)。一方、放牧主体における初産次の初回授精受胎率は、タイストールおよびフリーストールより低下する(図3)。
  • 各飼養形態の娘牛に対する初回授精の受胎の成否から、種雄牛の各飼養形態における娘牛初回授精受胎率の評価値が計算できる。タイストールとフリーストールの初回授精受胎率評価値の散布図は直線的であり、評価値間の優劣が一致する傾向にある(図4)。一方、放牧主体とタイストールおよびフリーストールの評価値の散布図はバラバラであり、評価値間の優劣が一致しない。
  • 評価値間の優劣が一致しないことから、乳用雌牛の初回授精受胎率は、放牧主体において発現する遺伝的能力がその他の飼養形態と異なる。よって、種雄牛の遺伝的能力を飼養形態ごとに評価することにより、放牧飼養牛群の繁殖能力改良に適した種雄牛の評価が可能となる。

成果の活用面・留意点

  • 乳用牛の初回授精受胎率の遺伝的能力評価における最適なデータ収集や数学モデルを検討する際の基礎情報として利用できる。
  • 本成果に示した飼養形態別の基礎数値は北海道において2012年に実施したアンケート結果に基づくため、都府県および最新の傾向については別途調査する必要がある。

具体的データ

図1 分析に用いた農家数および初産次頭数の飼養形態別内訳,図2 酪農家の飼養形態ごとの分娩後305日間累積乳量(305日乳量),図3 酪農家の飼養形態ごとの初回授精受胎率,図4 種雄牛の各飼養形態における娘牛初回授精受胎率評価値(初産)の散布図

その他

  • 予算区分:交付金、戦略プロ(生産システム)
  • 研究期間:2015~2020年度
  • 研究担当者:山崎武志、山口諭(北海道酪農検定検査協会)、武田尚人、大澤剛史(家畜改良センター)、萩谷功一(帯広畜産大学)
  • 発表論文等:Yamazaki T. et al. (2020) J. Dairy Sci. 103:10361-10373