ドローンによる空撮画像と深層学習を用いた牧草育種個体評価法

要約

ドローンと深層学習を利用した牧草育種における優良個体の効率的・客観的選抜のためのAI評価法である。視覚的評価形質である草勢、越冬性、罹病程度を対象に育種家と同様の評価が可能である。育種家が圃場の観察により評価していた作業を大幅に効率化できる。

  • キーワード:育種効率化、人工知能(AI)、深層学習、ドローン、牧草、無人航空機(UAV)
  • 担当:北海道農業研究センター・作物開発研究領域・飼料作物育種グループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

新品種の基礎となる優良個体は育種家による観察評価によって主に選抜されるため、その評価能力の高低が優良品種開発に大きく影響する。また、母集団が大きいほど優良個体を選抜できる可能性が高くなるため、より大きな集団を扱うことが望ましいが、観察評価には時間がかかるため扱える個体数には限界がある。さらに、国内の高齢化問題同様、熟練した牧草育種家は年を追う毎に減少している。このような状況下で、ドローンを活用して大きな集団の個体画像を短時間で取得し、熟練した育種家の能力と同等な評価を高い精度で画像認識できる深層学習で置き換える評価選抜法の開発が期待されている。そこで、ドローンと深層学習を利用して育種家の選抜能力を有する効率的な牧草育種個体選抜評価法を開発する。

成果の内容・特徴

  • 本評価法は、高度34 mで撮影した圃場全体の画像を個体ごとに分割し、あらかじめ学習用画像と育種家評点とのセットを使ってAI(GoogLeNet)を学習させ、検証により選択されたAIモデルを用いて試験用画像の評点を予測する方法である(図1)。
  • オーチャードグラスの草勢、越冬性、罹病程度の評価項目の検証で、AI推定評点が育種家評点と同じ点数のみ正答とすると約5割の正解である(図2A)。上下1点の誤差を正答とした場合、ほぼ9割以上の正答率が得られる(図2B)。
  • 育種家が2時間以上かかる約1000個体の評価を5分程度で実行できる。

成果の活用面・留意点

  • 試験条件の違い(牧草の草種、圃場の株間、空撮高度等)ごとにAIに学習させる必要はあるが、600個体以上の同様の試験圃場での選抜効率を向上させることが出来る。
  • 草勢については生育ステージが異なると評価を誤るため、生育ステージ毎のモデルを作成する必要がある。
  • 撮影条件が異なる画像を混在させて学習させることで、種々の撮影条件の画像でも正答率の高いAIモデルを作成できる。
  • 罹病初期段階のように至近距離の観察では評価が可能であるが、空撮画像に特徴があまり表れない場合、適切な調査日を設定する必要がある。
  • モデル作成時間短縮のため、高性能グラフィックボードが必要である。GeForce RTX 2080 Ti を用いて600個体を学習すると、30分以内にAIモデルを作成できる。
  • 牧草以外の作物にも応用できる可能性がある。

具体的データ

図1  AIモデル作成の概要,図2 AI推定評点の育種家評点(9段階)との正答率 A:育種家評点と同じ点数のみ正答、B:育種家評点の上下1点を正答とした場合

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2018~2020年度
  • 研究担当者:秋山征夫、無田廣之(バンダイナムコ研究所)、鈴木尚也(バンダイナムコ研究所)、眞田康治
  • 発表論文等:秋山ら(2020)育種学研究、22:21-27