薬用作物トウキの収穫適期推定プログラム

要約

薬用作物トウキの収穫適期推定プログラムは、メッシュ農業気象データ日平均気温を使用し、下限・上限温度間の生育好適温度日数をパラメータとする根の生育計算を行い、収穫適期を推定する。本州・四国の寒冷地(季節積雪地)、暖地のどちらにも対応する。

  • キーワード:薬用作物、(ヤマト)トウキ、収量予測、メッシュ農業気象データ
  • 担当:北海道農業研究センター・生産環境研究領域・寒地気候変動グループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

薬用作物(ヤマト)トウキ(Angelica acutiloba (Siebold & Zucc.) Kitag.)は、セリ科の多年生植物である。第十七改正日本薬局方において、根が生薬「当帰(トウキ)」の原料として利用され、婦人薬等の多くの漢方処方に配合される重要な医薬品原料である。トウキは、古来より関西地方などで栽培されてきたが、現在は北海道を含む国内の広範囲で栽培されている。気象要因を用いた詳細な生育解析研究はなく、トウキを新規作物として導入するにあたり、実際に現地で栽培してみなければ現地での気象に対する適応性や栽培時期、収穫時期の目安が分からない。本州・四国の国内9地点で、同一条件で育苗された同一系統の苗を用いた連絡試験を行った結果、その生育差は各試験地間の環境条件の差によると考えられる。そこで、各試験地のメッシュ農業気象データ日平均気温を用いて生育モデルを作成し、本州・四国の任意の地点で計算を行う収穫適期推定プログラムを開発する。

成果の内容・特徴

  • 夏季の高温による生育停滞が観察されたため、日平均気温より下限温度(5°C)と上限温度(26°C)を設定し、その間の生育好適温度日数Xをパラメータとする生育モデル計算を行う。
  • 根の乾燥重量(Y1)推定モデルには、Y1 = 1.62×10 -5 X 2.93 (1)式を使用する(図1)。線形回帰モデルは係数、定数項とも有意であったが、それより情報量基準AIC、二乗平方根誤差RMSEが小さい。
  • 根頭径(Y2)モデル(参考)には、最善の推定結果である線形回帰式Y2 = 0.28 X -5.40 (Y2 >0) (2) 式を使用する(図省略)。
  • 本プログラムは、希望する地点の緯度・経度、目標とする根の乾燥重量、定植年月日を入力し、「データ取得」ボタンをクリックすると、(1)式によって「収穫適期年月日」を出力するものである。画面上には、計算年の根の乾燥重量の推移と同時に日平均気温や積雪深の推移も同時にグラフ表示する(図2)。
  • 寒冷地(季節積雪地)での利用時には、計算当年の消雪日を推定(予測)して、定植可能時期を知ることができる。また、入力した目標とする根の乾燥重量から収穫適期を推定し、その時期の気温や積雪状況を知ることができる。一方、暖地での利用時には、計算当年のグラフから生育停滞時期を確認し、定植日を様々に設定して、目標とする根の乾燥重量の達成に向けた栽培期間のシミュレーションを行うことができる。計算当年ばかりでなく過去年の気温や積雪深に基づく定植時期、収穫時期の試算も可能である。

成果の活用面・留意点

  • 試験地は、秋田、新潟、長野、富山、茨城、広島、山口、香川、愛媛の各県である。
  • 利用に際して、メッシュ農業気象データの利用登録が必要である。

具体的データ

図1 生育好適温度帯日数と根乾燥重量の関係。2016~2018年の結果。,図2 収穫適期推定プログラム画面の一部

その他

  • 予算区分:委託プロ(薬用作物)
  • 研究期間:2016~2020年度
  • 研究担当者:井上聡、加藤晶子、矢野孝喜、甲村浩之(県立広島大)、五十嵐元子(医薬健栄研)、横井直人(秋田県農試)、諸橋修一(新潟県農総研)、野本英司(新潟県)、由井秀紀(長野県野菜花き試)、田村隆幸(富山県薬事総研)、安永真(山口県農林総技セ)、白石豊(愛媛県農林水産研)、菱田敦之(医薬健栄研、東京農大)
  • 発表論文等:
    • 井上ら(2021)生物と気象 21:21-25、doi: 10.2480/cib.j-21-065
    • 井上(2019)職務作成プログラム 「トウキ収穫適期推定プログラム」、機構-K18