露地野菜栽培圃場における被覆硝酸肥料の施用による一酸化二窒素排出削減

要約

被覆硝酸肥料の施用によって、施肥直後の硝化による一酸化二窒素の生成が抑制され、慣行のアンモニウム肥料の施用よりも一酸化二窒素排出を削減できる。

  • キーワード:一酸化二窒素、硝化、脱窒、被覆硝酸肥料、露地野菜
  • 担当:北海道農業研究センター・生産環境研究領域・土壌管理グループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

温室効果ガスの一酸化二窒素(N2O)は、農耕地土壌中で施肥窒素の代謝により生成し、大気中に排出される。硫酸アンモニウム、尿素などの主要な化学肥料はいずれもアンモニウム態窒素を含んでおり(以下、アンモニウム肥料)、農耕地土壌への施用後に硝化・脱窒の双方の過程でN2Oが生成する。一方、硝酸カルシウムなどの硝酸態窒素を含む化学肥料(以下、硝酸肥料)を施用した場合は、硝化によるN2O生成はなく、脱窒によるN2O生成のみである(図1)。このことから、硝酸肥料からのN2O生成・排出は、理論的にはアンモニウム肥料よりも低くなると考えられる。
また硝酸肥料は、単体では含まれている硝酸性窒素が降雨にともなって地下に溶脱しやすい欠点があるため、露地の畑圃場ではほとんど用いられていないが、樹脂被覆された緩効性の被覆硝酸肥料を用いれば、地下に溶脱しやすい硝酸肥料の欠点を補いつつ、N2O排出を削減できる可能性がある。しかしながら、被覆硝酸肥料の施用とN2O排出との関係についての既往の研究事例は僅かである。本研究では、ニンジンの露地栽培試験によって、被覆硝酸肥料の施用による土壌からのN2O排出削減効果を実証する。

成果の内容・特徴

  • 硫酸アンモニウム(慣行のアンモニウム肥料)を施用した区(硫安区)では、春の施肥直後にN2Oフラックスが増加するが、被覆硝酸カルシウムを施用した区(被覆硝カル区)では、施肥直後にN2Oフラックスは増加しない。またこのとき、硫安区ではN2Oに加えて一酸化窒素(NO)フラックスが増加すること等から(データ省略)、土壌中で硝化を主とするN2O生成が促進される一方で、被覆硝カル区では硝化によるN2O生成が生じていないことが示される(図2)。
  • 夏期の多量の降雨の後、およびニンジン収穫後に、N2Oフラックスが一時的に増加する。これらのフラックスピークは施肥の種類に関わらず生じていること等から、脱窒を主とするN2O生成であることが示される(図2)。
  • 被覆硝カル区の積算N2O排出量は、窒素肥料無施用の区(無窒素区)と同等であり、硫安区より36%低くなる。また、被覆硝カル区のN2O排出係数(施肥窒素に対するN2O排出窒素の割合)は0.05%であり、硫安区(0.44%)よりも大幅に低く(表1)、被覆硝酸肥料の施用によるN2O排出削減効果が示される。
  • ニンジンの収量には、施肥による有意な差はない(表1)。

成果の活用面・留意点

  • 本研究は、北海道石狩地域の試験畑圃場(黒ボク土壌)における露地ニンジン栽培試験の結果である。被覆硝酸肥料によるN2O排出削減効果は、一般的には温暖な地域・排水性の良い土壌においてより高くなると考えられるが、今後さらに実証研究事例を重ねて、様々な畑作物、地域において、被覆硝酸肥料の施用がN2O排出、作物収量に及ぼす影響を明らかにする必要がある。

具体的データ

図1 土壌中での窒素代謝経路およびN2O生成,図2 ニンジン栽培圃場におけるN2Oフラックスの経日変化,表1 ニンジン栽培期間の積算N2O排出量およびニンジン収量

その他

  • 予算区分:交付金、科研費、その他外部資金(農地土壌炭素貯留等基礎調査事業)
  • 研究期間:2016~2017年度
  • 研究担当者:西村誠一、杉戸智子、岡紀邦、長竹新(北大、現:寒地土木研)
  • 発表論文等:Nishimura S. et al. (2021) Nutr. Cycl. Agroecosyst. 119:275-289