中小型トラクタの直線作業をアシストする高精度な自動操舵装置

要約

中小型トラクタに装着可能な自動操舵装置。目標地点の風景を画像装置に記憶させて直進走行することで1行程目から自動操舵が可能。2行程目以降は、前行程の作業跡と一定間隔を保つ追従走行を自動操舵にて行う。走行の精度は誤差5~10cm以内。

  • キーワード:画像処理、自動操舵、トラクタ、ステアリング
  • 担当:農業技術革新工学研究センター・総合機械化研究領域・果樹生産工学ユニット
  • 代表連絡先:電話 048-654-7000
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

トラクタによる播種、畝立て、マルチ敷設などの作業では、行程を直線的かつ前行程と一定間隔を保つことが重要であり、オペレータには高度な運転技術が要求される。そこで非熟練者でも作業が可能となる自動操舵装置が既に開発されているが、高精度なGPSを用いる自動操舵装置は高価となる傾向であるため、画像処理技術を用いることで低価格化した自動操舵装置を開発した(2015年 普及成果情報「非熟練者でも容易に直進作業が可能な後付け型の自動操舵装置」を参照、以下、従来装置)。しかし、従来の装置では専用のLEDランプやマーカーなどが必要であったため、これらの補助機器を用いず、より一層の低価格化と操作性の向上を進めた自動操舵装置を開発する。

成果の内容・特徴

  • 開発機は既存のキャビン付トラクタに、画像装置と操舵装置を後付け装着する構成である。画像装置は単眼式のカメラと小型計算機が一体化した機器に、独自開発の画像処理アルゴリズムを組み込んだもので、キャビン内の上部に前方を向けて取り付けられる。操舵装置はメーターパネルのバイザー上に固定され、内蔵された小型モーターで駆動されるローラーによって、ステアリングホイールを外周から回転させる構造である(図1、表1)。これらの装置の構造と外観は、従来装置と同様である(上記の2015年 普及成果情報を参照)。
  • 圃場での作業の1行程目では、圃場の遠方側の目標地点の風景を画像装置に記憶させ、この画像を自動的に追跡することで、目標地点に向けた直進走行を自動制御する(図2左)。目標地点の風景は、樹木や建物の一部が適し、無地の壁などは適さない。また、風景の記憶は、人や自動車など移動中の物体が、目標地点の付近にいない時に行う。
  • 圃場での作業の2行程目以降では、画像装置はトラクタの前方10m付近の地面の凹凸形状を算出し、続いて地面の凹凸形状から前行程の作業跡やマーカー跡の位置を検出し、それらに対してトラクタが一定間隔を保つ追従走行を自動制御する(図2右)。
  • 開発機による作業軌跡の精度は、概ね行程の80%以上で±5cm以内となり、熟練オペレータと同レベルの精度が得られる (表2)。
  • カメラ画像や装置の動作状態の表示、画像装置に記憶させる目標地点の位置の調整、追従走行でのトラクタと作業跡の間隔の調整などは、ユーザーが所有するスマートフォンまたはタブレットPCで行うことができる。
  • 曲率半径400m程度までの曲がった圃場や行程にも追従可能である。

普及のための参考情報

  • 普及対象:播種、畝立て、マルチ敷設などの作業を中小型トラクタで行う生産者。
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:市販化5年間で1,200台。
  • その他:2017年度下期より市販予定。従来の高精度GPSを使用するトラクタ用の自動操舵装置の1/2以下の低価格となる見込み。
    トラクタは画像装置を風雨などから保護するためにキャビン付に限定される。
    暗い夕方や夜間、大きな凹凸のある圃場では使用できない。また、朝夕の逆光や霧、影などの影響で走行精度の低下が発生する場合がある。

具体的データ

図1 自動操舵装置の全体構成;表1 自動操舵装置の主要諸元;図2 圃場での作業状況;表2 自動操舵システムによる作業精度

その他

  • 予算区分:交付金、緊プロ
  • 研究期間:2012~2016年度
  • 研究担当者:塙圭二、大西正洋、深井智子、石川昌範(三菱マヒンドラ農機)、林田淳一(三菱マヒンドラ農機)
  • 発表論文等:塙ら「走行制御装置」特許第5952611号(2012年3月28日出願)他