南西諸島で誘殺されたミカンコミバエの推定された飛来源と国内分散の可能性

要約

沖縄県で誘殺されたミカンコミバエの推定飛来源は、台湾、フィリピン、中国南部であり、鹿児島県での誘殺に対する飛来源は台湾北西部である。2015年の奄美大島での発生では、徳之島、伊平屋島など周辺の島へ分散したと推定される。

  • キーワード:ミカンコミバエ、飛来、飛来源、流跡線解析、分散
  • 担当:農業技術革新工学研究センター・高度作業支援システム研究領域・高度情報化システムユニット
  • 代表連絡先:電話048-654-7000
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

ミカンコミバエは主に熱帯、亜熱帯地域で発生し、かんきつ類やマンゴー、グアバなどの熱帯性の果樹類や果菜類の果実を加害する害虫である。ミカンコミバエは1986年に日本から根絶されたが、沖縄県では根絶後から毎年侵入警戒トラップに年間数頭から30数頭程度誘殺されている。鹿児島県では薩南諸島の複数の島において2015と2017、2018年に誘殺された。一般に誘殺の要因は、飛来によるもの、もしくは人による寄生果実の持ち込みによるものが考えられるが、どの要因に基づき誘殺が起こったかは不明であった。そこで本研究では飛来と考えられる場合の飛来源を推定し、南西諸島で飛来が起こり得る分散距離を明らかにする。また、2015年の鹿児島県の奄美大島では6月下旬の最初の誘殺が確認された後、9月下旬頃から誘殺数が増加し、10月下旬に最大となった。その際に奄美大島の周辺の島でもミカンコミバエの誘殺があったため、奄美大島から分散した可能性が疑われていた。そのため、本研究では奄美大島周辺の気流を調べ、島嶼間の分散が起こっていたかを推定し、国内分散の可能性を明らかする。

成果の内容・特徴

  • 流跡線解析(図1)に基づき、沖縄県の侵入警戒トラップによる1986年から2012年までの全ての誘殺の内、流跡線が周年発生地に到達した65.8%が飛来と推定される。飛来源の頻度は、台湾(71.8%)、フィリピン(24.3%)、中国南部(3.9%)の順に多い。
  • 飛来時の気象条件は、梅雨前線(44.6%)、台風(36%)、高気圧(12%)、熱帯低気圧(7.5%)であり、誘殺数は6月、7月、8月の順に夏期に多く(図2)、南部の先島諸島で多い。
  • 2015年の鹿児島県奄美大島での誘殺と、2017年の沖永良部島、徳之島、屋久島での誘殺、および2018年の沖永良部島、徳之島、奄美大島での誘殺では、台湾北西部が飛来源と推定される(図3)。したがって本種が風を利用して飛来する目安となる距離は、最大で台湾から屋久島までの距離約1,000kmである。
  • 2015年に奄美大島で多数のミカンコミバエが誘殺された時期に、徳之島(奄美大島から45km)、伊平屋島(同173km)、沖縄本島(同175km)に分散したと推定される(図4)。

成果の活用面・留意点

  • 推定された飛来源は、飛来リスク情報を提供するソフトウエア「ミカンコミバエ飛来解析システム」(2014年度普及成果情報)で飛来リスク指数を計算する流跡線の起点として利用されている。
  • 南西諸島に近く、主要な飛来源である台湾では、ミカンコミバエは周年発生している。グアバ、マンゴー、かんきつ類、バンレイシなどが主要な寄主植物であり、それらの果実が実る5月から10月に発生盛期となる。また台湾の南部ほど発生量が多い。
  • ミカンコミバエは発生を許すと、そこから周辺へさかんに分散すると考えられるため、トラップ調査による侵入警戒と誘殺時の初動対策が根絶維持に極めて重要である。

具体的データ

図1 後退流跡線の例(沖縄県),図2 沖縄県の侵入警戒トラップで1986年から2012年に誘殺されたミカンコミバエ誘殺数の季節変動,図3 後退流跡線の例(鹿児島県),図4 順方向流跡線の例(鹿児島県)

その他

  • 予算区分:競争的資金(イノベ創出強化)、その他外部資金(27補正「地域戦略プロ」)
  • 研究期間:2011~2018年度
  • 研究担当者:大塚彰、松村正哉、真田幸代、原口大(沖縄県農研セ)、嘉数怜(沖縄県防技セ)、佐渡山安常(沖縄県防技セ)、中村浩昭(鹿児島県)、山口卓宏(鹿児島県農業開発総セ)
  • 発表論文等: