メッシュ農業気象データシステムの予報値を利用した昆虫の世代予測システム

要約

昆虫の世代予測において、メッシュ農業気象データの予報値を利用することにより、従来法のアメダス平年値を利用するより、世代予測の精度が向上する。システムはWeb APIを持つWebアプリケーションとして提供され、パラメータ値が登録された多くの昆虫種の世代予測が可能である。

  • キーワード:昆虫世代予測、メッシュ農業気象データ、予報値、Webアプリケーション、Web API
  • 担当:農業技術革新工学研究センター・高度作業支援システム研究領域・高度情報化システムユニット
  • 代表連絡先:電話 048-654-7000
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

害虫の防除適期を知るために、昆虫の世代予測は必須な手法であり、有効積算温度を用いて行われている。その予測のための気温としてアメダス平年値が利用されてきたが、近年の温暖化により気温推移が平年値から外れ、予測誤差が大きくなっている。農研機構は、メッシュ農業気象データとして1kmメッシュで26日先までの予報値を含む気温データを提供している。これを用いることで、世代予測精度の向上が期待できる。そこで、メッシュ農業気象データの予報値を利用できる昆虫の世代予測システムを開発する。システムはWeb APIを持つWebアプリケーションとして提供する。

成果の内容・特徴

  • 昆虫の世代予測は図1のように、気温から発育零点を引いた有効温度を積算することで行なわれる。発育零点T0や有効積算温度Kの値は、世代予測のパラメータ値として、昆虫の生育場所やステージ(卵、幼虫、成虫等)ごとに定められている。桐谷によって収集されたパラメータ値が農業環境技術研究所資料21(甲虫目、ハエ目、カメムシ目、ハチ目、チョウ目、貯穀害虫、アザミウマ目、その他の昆虫、ダニ目、線虫類)と農業環境技術研究所報告31にまとめられている。本システムにはカメムシ目(43種、101パラメータ)とチョウ目(81種、195パラメータ)のパラメータが収録されており、拡大していくことができる。
  • 気温はメッシュ農業気象データやアメダスから取得する。予測に利用する未来のデータは、前者は予報値、後者は平年値が利用される。昆虫の世代予測は時別値で計算されるが、メッシュ農業気象データは日別値しか提供していないため、三角法(坂神・是永1981)により日最高気温と日最低気温から有効温度を計算している。
  • 本システムのWebアプリケーションは、Javaサーブレットとして実装され、サーバ上のTomcatなどのサーブレットコンテナ上で動作する。Webブラウザに表示された図2の画面上で設定を行って実行するだけでなく、表1のWeb API経由で実行することも可能である。Web APIを利用すると、地点や期間の値の文字列処理のみで、様々な条件での実行が可能となる。結果はグラフ(図3)や表で出力できるほか、XMLやJson形式で出力させると、他のアプリケーションで利用することが容易になる。

普及のための参考情報

  • 普及対象:防除所、普及指導機関。
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:トビイロウンカに適用する場合は西日本の各県。
  • 農業データ連携基盤WAGRI上で利用可能にする予定である。

具体的データ

図1 昆虫の世代予測手法と、防除適期予測での利用法,図2 昆虫の世代予測Webアプリケーション画面,図3 昆虫世代予測Webアプリケーションの結果画面,表1 昆虫の世代予測システムのWeb APIのパラメータ名と指定内容

その他

  • 予算区分:理事長裁量型目的基礎研究
  • 研究期間:2018~2019年度
  • 研究担当者:田中慶、大塚彰、松村正哉
  • 発表論文等:
    • 田中ら(2019)九病虫研会報、65:75-83
    • 田中(2019)農研機構研究報告、1:67-75
    • 田中(2018)職務作成プログラム「農業モデルWebアプリケーション開発用フレームワークJAMF」