農作業現場の安全確保に向けた具体的改善につなげる対話型農作業安全研修ツール

要約

研修参加者が自発的に現場の安全確保に向けた具体的改善につながる行動目標を決めるための農作業安全研修ツールである。各地域で、農作業安全推進を担う指導的立場の人材が、農業機械等に関する知識に依存することなく、現場での改善活動につながる研修を実施することが可能となる。

  • キーワード:農作業安全、農業機械、安全研修、改善活動
  • 担当:農業技術革新工学研究センター・安全工学研究領域・安全技術ユニット
  • 代表連絡先:電話 048-654-7000
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

農作業事故については、死亡災害の就業人口あたり発生件数が他産業に比べて突出しており、大きな問題であるため、農作業安全研修が各地域で行われているが、その多くが大人数を集めての講義形式となっている。一方、他産業では小集団で講師と参加者が危険事例等を踏まえて対話をしながら研修を行い、参加者が自発的に具体的な改善目標を作成することで、事故の未然防止につなげている。
そこで、農業において小集団での実効的な対話による安全研修を実施するための手法を整理し、農作業事故の中でも死亡事故が多い農業機械に関する知識が十分でなくても研修を実施できる、対話型農作業安全研修支援ツール(以下「本ツール」)を開発する。

成果の内容・特徴

  • 本ツールは、活用マニュアル(図1)、ヒヤリハット経験の事前調査票(図2)、事前調査票の各項目に対応した改善策一覧表(図2)から構成される。事前調査票及び改善策一覧表は、機種共通、乗用トラクタ、歩行用トラクタ、刈払機、田植機、自脱コンバイン、乗用草刈機、スピードスプレーヤ、農用運搬機、農用高所作業機、脚立・はしごで構成され、研修対象にあわせて選択できる。
  • 事前調査票と改善策一覧表の各項目は、既往の安全関連資料や事故調査結果等を踏まえて構成し、内容の適切性を確保している。改善策一覧表では、改善策を「機械・用具・装置」「作業方法や安全管理体制」「作業環境」に分類し、それぞれの面から具体的な改善活動を検討しやすいように配慮している。人的要因については、複数のヒヤリハット経験に共通するため、別途改善項目を整理し、活用マニュアルに組み込んでいる。
  • 事前に法人、オペレータ、若手中心等、研修対象を絞り込み、対話による意見交換が可能な小集団となるように調整した後、事前調査票により、予め研修参加者のヒヤリハット経験を把握する。
  • 事前調査票の結果を基に、研修対象となる集団で起きている危険事象を確認し、研修内容を重点化できる。また、回答が多い項目に対応する改善策を事前に一覧表で確認することで、対話型研修での意見交換時に適切な助言を行うことが可能となる。
  • 研修当日は、集団での危険事象を基に類似の事故事例や改善策を例示しつつ、参加者からの意見や発案を促し、最終的に集団自身で具体的な改善目標を作成することで、実効的な農作業安全対策につなげることができる。なお、本ツールは編集可能なファイル形式で公開され、担当者は研修実績や地域の実情により項目の取捨選択や新規追加を行い、地域版ツールを構成することもできる。

普及のための参考情報

  • 普及対象:生産者、普及指導機関、農協、自治体、機械用具製造販売業者、労働安全関係者。
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:全国。
  • その他: 2020年度よりウェブサイト「農作業安全情報センター」で公開。マニュアルには本ツールの概要、事前準備事項、研修進行方法、取りまとめ方法等を記載。対象機種・項目等は今後の研修実績を踏まえて追加予定。既に2018年度より2県10ヶ所で本ツールを活用した生産者向け研修会の実績がある。

具体的データ

図1 活用マニュアルの構成,図2 ヒヤリハット経験の事前調査票(上)及び改善策一覧表(下)の一例

その他