結晶質シリカの生成を抑制する籾殻燃焼装置

要約

籾殻燃焼熱を穀物乾燥機に利用するための籾殻燃焼装置である。本装置は、籾殻の燃焼温度と燃焼時間を適正に制御することによって、肺がんを引き起こすとされる燃焼灰中の結晶質シリカの生成を検出限界以下に抑制できる。燃焼灰は肥料効果のある可溶性ケイ酸を約50%含有している。

  • キーワード:籾殻燃焼熱利用、可溶性ケイ酸、結晶質シリカ
  • 担当:農業技術革新工学研究センター・次世代コア技術研究領域・ポストハーベストユニット
  • 代表連絡先:電話 048-654-7000
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

穀物生産の大規模化に伴い、30~40ha規模のミニライスセンターを設置する生産法人が増えてきている。この規模の施設では、年間3600~4800Lの灯油を消費するとされ(平成4年度農業機械学会調査報告書No.5「農業機械による環境保全機能向上のための調査研究」より)、そのため、灯油使用量の削減は生産コストを下げる点で重要な一要素である。また、大量に発生する籾殻処分についても苦慮している現状がある。日本では籾殻の野焼きは基本的に禁止されているため、収穫時期の農繁期にわざわざ籾殻を圃場に散布する作業を行っている。そのため、籾殻の減容化、燃焼熱の利用、くん炭利用に対する根強い要望がある。反面、最近では籾殻燃焼時に燃焼灰中に生成される結晶質シリカによる肺がん発症のリスクやススの排出などの問題があり、国内での籾殻燃焼炉の開発は進んでいない現状である。また東南アジアを中心とする海外では、米生産量の増加、乾燥工程における歩留まり向上のために乾燥機を導入する国が増えてきており、その際の燃料が籾殻であるため、結晶質シリカによる健康被害について問題意識を持っている。
そこで、籾殻の燃焼熱をライスセンター等の穀物乾燥施設に利用することができ、結晶質シリカの生成を抑制する燃焼装置を開発する。

成果の内容・特徴

  • 籾殻中のシリカ(SiO2)の結晶化は、燃焼温度と燃焼時間を管理することで抑制される(図1)。800~1000°Cであっても燃焼時間が3分以内であれば、結晶質シリカの生成は抑制され、穀物乾燥に有効な熱利用も可能である。
  • 本装置は、多孔質の板の中央に供給された籾殻を回転レーキにより一定の厚さで堆積燃焼する方式である。燃焼用空気は堆積層の下から供給する(図2)。籾殻堆積層は数cm程度と薄く均一で、広い面で燃焼可能なため、燃焼ムラが小さく、ススが出にくい。燃焼温度は800~900°C、籾殻の炉内滞留時間は1分程度で、籾殻くん炭製造等と比較して、高温短時間燃焼であることによって、籾殻の熱利用と結晶質シリカ生成の抑制との両立が可能となっている。熱出力は籾殻供給量に比例し、籾殻供給量50kg/h時に120kW(灯油換算で約12L/h)である(図3)。本装置の大きさは、縦1.2m、横1.2m、高さ3.0mで、限られた空間に設置可能である。供給する籾殻はペレット等に加工する必要はない。
  • 燃焼灰の主な成分はSiO2で、可溶性ケイ酸を50%程度含有しており、市販されている籾殻くん炭と同等の施肥効果が期待できる。また、結晶質シリカについては検出限界以下の濃度である(表1)。
  • 燃焼灰の形状は元の籾殻形状をほぼ維持しており、容積重は生の籾殻とほぼ同等である。生の籾殻1000kgから約200kgの灰となるため5分の1程度に減容化される。さらに、灰の飛散性は低い(表1)。

成果の活用面・留意点

  • 本装置は張込量30~50石(3~5t)の循環式穀物乾燥機5~3台分の熱源に利用することができる。
  • 穀物乾燥機本体の改造は必要が無いため、既存設備への後付けが可能である。
  • 本装置を利用した場合の穀物乾燥機の灯油使用量は、乾燥機の灯油バーナーに対する本装置の熱供給割合(アシスト率)に比例して削減することができる。通常は穀物乾燥機の制御機能を活かすため、アシスト率は50~70%が好適範囲である。

具体的データ

図1 籾殻の燃焼条件とシリカ(SiO2)の関係,図2 籾殻燃焼装置の内部構造,図3 籾殻供給量と熱出力の関係

その他

  • 予算区分:交付金、緊プロ
  • 研究期間:2015~2017年度
  • 研究担当者:
    土師健、日髙靖之、野田崇啓、野口良造(筑波大学)、安久絵里子(筑波大学)、山下勝也(静岡製機)、大石茂(静岡製機)、浅岡健二(静岡製機)、浅井綱一郎(静岡製機)、嶋津光辰、荒井圭介
  • 発表論文等:
    • 日髙ら「籾殻燃焼装置、穀物乾燥システム」特願PCT/JP2018/ 8562(2018年3月6日)