腰補助用パワーアシストスーツの動的アシスト力測定装置

要約

腰の伸展を補助するパワーアシストスーツの基本的な性能となるアシスト力(N・m)を測定する装置である。これまで静止時のアシスト力を測定する方法が提案されてきたが、本計測装置により、運動中のアシスト力を再現性高く測定することが可能である。

  • キーワード:パワーアシストスーツ、軽労化、アシスト技術、身体負荷、腰痛
  • 担当:農業技術革新工学研究センター・安全工学研究領域・労働衛生ユニット
  • 代表連絡先:電話 048-654-7000
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

近年、作業者の身体に装着し腰の伸展を補助することで、身体的負担を軽減するパワーアシストスーツ(以下、PAS)が市場に出始めており、その性能や効果に対する評価試験方法の確立が望まれている。PASの安全性や性能に関する規格(JIS B8456-1)には、静止時のアシスト力を測定する方法が規定されているが、運動中のアシスト力を測定する方法については、試験の困難さや再現性の問題から実現されていない。開発者が農作業での持ち上げ動作におけるPASの性能を評価する場合、運動中のアシスト力を測定する方法が求められる。
そこで、本研究では電動シリンダを用いたアシスト力測定装置を開発することで、運動中のPASのアシスト力を再現性高く測定することを可能にする。

成果の内容・特徴

  • 本装置は、PASの固定台座、電動シリンダ、ロードセルを付加したワイヤロープから構成される(図1)。ワイヤロープは、滑車等を介してPASの駆動アーム(以下、アーム)と電動シリンダに結合されており、アシスト力発揮中のPASのアームの回動に対して電動シリンダが負荷となることにより、引張力が生じる。このときのワイヤロープの引張力のうち、アームに対して垂直な成分を求め、アームの長さと掛け合わせてアシスト力を算出する。
  • パワーアシストスーツをアシスト開始状態とし、電動シリンダを最下げ位置から上方向に伸展させる。このとき、アームはアシスト力によりワイヤロープを引っ張りながら回動する。アームの自重による回動が含まれる場合は、それを除外することで引張力を求める。一定の速度で伸展する電動シリンダが負荷となることにより、アシスト力作動中のアームの引張力を安定して測定することができる。また、電動シリンダの速度を任意に設定することで、開発者が意図するアームの回動速度に調節できる。
  • 電動シリンダの移動量からアーム角度及びワイヤ角度を算出しており、アシスト力の計算において角度計等を必要としない(式1、2)。また、式中の各定数は、実際のアーム角度とそのときの電動シリンダの移動量を数点取得し、最小二乗法によって最適解を求めることで算出できる。さらに、固定台座や電動シリンダ、滑車等の位置関係が異なる場合においても、同様にアーム角度及びワイヤ角度を算出し、アシスト力を求めることができる。
  • 運動中のアシスト力を特性曲線として示すことができ、PASの設定条件や供試機による性能の違いを比較検証可能である(図2)。
  • 市販機を供試した測定により最大アシストを発揮している区間における最大及び平均アシスト力の標準偏差は1N・m未満となり、再現性の高い測定が可能である(表1)。

成果の活用面・留意点

  • 回転軸を有する蝶番構造であり、身体に装着し、着用者の大腿をアームで押しつけるとともに、体幹を引き起こす機能を持つ、腰の伸展を補助するパワーアシストスーツの評価に活用する。
  • 機種によって、ワイヤロープの固定方法等を考慮する必要がある。

具体的データ

図1 アシスト力測定装置,図2 アシスト力の特性曲線例,表1 最大アシスト力測定例

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2017~2019年度
  • 研究担当者:田中正浩、菊池豊、梅野覚、原田泰弘、塚本茂善、紺屋秀之、山﨑裕文
  • 発表論文等:
    • Tanaka et al. (2020) JSAM 82(2):196-198
    • 田中ら「装着式動作補助装置の性能評価装置」特願2020-063190(2020年3月31日)