低コストな樹脂製テープを用いたトマト用接ぎ木装置

要約

接合資材に低コストな樹脂製テープを用いて、熟練作業者と同等程度の活着率及び2倍以上の作業能率で接ぎ木作業可能なトマト用接ぎ木装置である。接合資材は、弾性力を有した素材であるため、手作業用のチューブ以上に、穂木及び台木の軸径差に対して広い許容範囲で接ぎ木可能である。

  • キーワード:接ぎ木、テープ、接合資材、自動化、トマト
  • 担当:農業技術革新工学研究センター・次世代コア技術研究領域・生産システムユニット
  • 代表連絡先:
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

土壌病害や樹勢強化対策として、国内外を問わずトマト接ぎ木苗の需要は増加し、国内では栽培面積の6割を占める。特に近年では、苗生産企業からの購入苗の需要が増加している。一方で、熟練技術が必要な接ぎ木作業者の労働力不足が深刻化しており、今後の安定供給及び需要増加に応えるため、接ぎ木作業の自動化・省力化が求められている。既に、接合にクリップを用いるウリ科野菜用の接ぎ木装置は市販され、トマトにも利用可能であるが、接ぎ木苗1本ごとに使用される接合資材の低コスト化が求められている。
そこで本研究では、接合資材に低コストな樹脂製テープを用いた新たな接合方法により、接合資材のランニングコスト低減を図るとともに、熟練作業者の活着率と同等程度かつ高い作業能率で接ぎ木可能な装置を開発する。

成果の内容・特徴

  • 開発機は、穂木及び台木の切断部、接合部、苗を把持し移動させる回転テーブル、テープ供給部等から構成される(図1)。装置の電源はAC100Vであり、各作業部には電動アクチュエータを用いている。また、苗切断後の余分な胚軸等の除去を行うためエアコンプレッサ(1.1kW、容量25L程度)を使用する。
  • 接合部は、弾性力を有した2枚の樹脂製テープ(粘着剤不使用)で苗の接合箇所を挟み込み、苗の胚軸周辺を超音波溶着することにより接合箇所の固定を行う(図2)。接ぎ木後の樹脂製テープは、苗の生育に伴い徐々に溶着部分が剥がれ、自然に脱落する。また、素材はエコテックス認証を取得しているものを用いている。苗1本当たりの樹脂製テープの価格は、市販価格と比較してチューブ(手作業用)の約35~50%、クリップ(ウリ科接ぎ木装置用)の約15%である。
  • 供給者1名が、穂木及び台木を1株ずつ回転テーブルに供給する。回転テーブルには苗の把持部が45°間隔で取り付けられ、回転角度は45°である。初めに供給位置から45°回転した位置で両苗の斜め切断を同時に行い、次に135°回転した位置でテープによる接合を行う。最後に供給部から225°回転した位置で設置されているコンベア上に苗を落下させ、機外への排出を行う。
  • 開発機の作業能率は500本/h程度であり、熟練作業者による作業が200本/h程度であるのに対して2倍以上の能率で作業を行うことができる。また、接ぎ木苗の活着率は熟練作業者による接ぎ木作業と同等程度の90%以上である(表1、2)。また、本装置では、台木及び穂木の軸径差が平均で0.6mm程度ある場合でも良好に接ぎ木可能である。胚軸長(台木)及び第1節間長(穂木)は表1の範囲程度で作業が良好である。

普及のための参考情報

  • 普及対象:苗生産企業
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:苗生産企業・100台
  • その他:2021年に市販化予定である。本成果は共同開発企業により市販化される。

具体的データ

図1 開発機の外観,図2 テープによる接ぎ木苗の様子,表1 供試苗の条件,表2 作業能率及び活着率

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2015~2020年度
  • 研究担当者:
    中山夏希、小林有一、林原達朗(イワタニアグリグリーン)、横坂英信(イワタニアグリグリーン)、加納一広(京和グリーン)、山本長武(京和グリーン)、辻本翔(京和グリーン)
  • 発表論文等:
    • 中山ら「接ぎ木方法」特許第6747637号(2020年8月11日登録)
    • 中山ら「接ぎ木装置」特許第6751948号(2020年8月20日登録)