前屈み姿勢時に腰の負担を軽減する腰補助器具

要約

二重ループ形のバネを背中へ固定する腰補助器具は、重量物を取り扱わないで前屈み姿勢を保持して行う軽負荷の作業時に腰への負担を軽減できる。さらに、体幹の前後・左右方向の曲げやひねり動作時や、歩行、しゃがみ時に脚の動作を著しく妨げないで体幹の保持に要する力を補助できる。

  • キーワード:前屈み姿勢、軽負荷、腰負担、軽労化
  • 担当:農業技術革新工学研究センター・安全工学研究領域・労働衛生ユニット
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

ホウレンソウなどの軽量野菜の収穫や管理作業などは、重量物を取り扱わない軽負荷の作業であるが、長時間体幹を前屈させたまま姿勢を保持することで、腰の疲労や腰痛の背景となっている。このことから農家や普及センターなどから改善要望が出されている。一方で、介護用、物流用に開発されたアシストスーツが市販されているが、体幹のひねり、しゃがみなどの動作には対応できていないことがあり、農業分野には広く普及していない。そこで、体幹を前屈させた姿勢を保持する軽負荷な作業に対応し得る農業用腰補助器具を開発して身体負担を軽減し、快適性の向上を図る。

成果の内容・特徴

  • 本腰補助器具(以下、開発器具)は、長円形(ばね鋼線材φ2、縦50cm×横15cm)のバネ(以下、ループバネ)と、肩ベルト、腰ベルト、脚ベルトから構成されている(図1、2)。体幹を前屈させたまま姿勢を保持する軽負荷の作業に使用可能である。
  • ループバネは、ループ形の下側が二重になっている。下側の線材が二重になっていることで動きの支点となる腰付近での力の補助を強化している。ループバネによる前後曲げ方向の補助トルクは約9Nmである。使用者の背中に固定したループバネは、使用者の体幹の動作に伴って同じ方向へ曲がり、その復元力によって体幹の保持に要する力(以下、保持力)を補助できる(図1、2)。さらに、前後・左右方向の曲げやひねり動作時にも保持力を補助できる。
  • 脚ベルトは、ループバネの下端へ左右にスライド可能な状態で取り付けられており、歩行や片足を前に踏み出して左右非対称に配置したり、股を広げてしゃがむ、ひざまずくなどの場合にも脚の動作を著しく妨げないで保持力を補助できる。肩ベルト、脚ベルトの締め具合で保持力を調節できる。
  • 被験者男女11名(年齢43±13歳、身長167±8cm、体重59±13kg)による、ホウレンソウ収穫作業などを想定した模擬作業後における負担感の主観評価の平均(5段階(1[感じない]-2-3[ややきつい]-4-5[非常にきつい]))は、総合評価及び、腰、尻、左腿後の部位で開発器具有の方が少なく、負担軽減の効果が認められた(図3)。さらに、ほ場作業(図4)では腰の負担感が概ね軽減された。

成果の活用面・留意点

  • 重量物を取り扱わないで前屈み姿勢を保持して行う作業時に、腰への負担軽減に活用する。
  • 実用化に向けては、使用者の体格等への調節法などを検討する必要がある。

具体的データ

図1 開発器具の概要,図2 開発器具の装着状態(右側面),図3 模擬作業での主観評価結果(1[感じない]-・・-5[非常にきつい]) *:5%の有意差有 [t検定],図4 ほ場作業風景(ホウレンソウ収穫)

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2018~2020年度
  • 研究担当者:菊池豊、田中正浩、梅野覚、中西由美花(鳥取県)、藤井晶子(鳥取県)
  • 発表論文等:菊池ら、特願(2020年3月31日)