暖地で耕起栽培と同等の収量が得られるスーダングラスの不耕起栽培技術

要約

スーダングラスの不耕起栽培では播種前に除草剤を処理することで雑草を抑制でき、耕起栽培と遜色ない収量が得られる。不耕起栽培の導入により、慣行の播種作業と比較し、作業時間と燃料消費量をそれぞれ約7割削減できる。

  • キーワード:スーダングラス、不耕起栽培、雑草、播種作業時間
  • 担当:九州沖縄農業研究センター・畜産草地研究領域・飼料生産グループ
  • 代表連絡先:q_info@ml.affrc.go.jp、Tel:096-242-7682
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

暖地の多毛作体系では前作の収穫作業と後作の播種作業との間に作業競合が生じやすく、スムーズな作付の移行には、省力的な播種が可能な不耕起栽培技術の開発が望まれる。不耕起栽培は圃場を耕さずに播種する方法で、播種作業の負担を軽減できる一方、一般に雑草管理や収量性に難があるとされている。特に雑草の混入は飼料品質の低下につながりやすい。そのため、不耕起栽培を普及させるには、不耕起栽培に適した雑草管理方法を開発するとともに、慣行の栽培方法と収量に差がないことを示す必要がある。そこで、夏作として広く利用されているスーダングラスを対象に、収量や雑草量の面から適切な条間や除草剤処理方法を明らかにし、生産現場に適用できる不耕起栽培技術を確立する。

成果の内容・特徴

  • スーダングラスの条播栽培では播種時期と条間により、雑草の抑圧程度が異なる。気温の高い7月に播種する場合には条間30cm以下に設定すれば、播種後約1ヶ月でスーダングラスが耕地を9割程度被覆し、雑草を抑圧できるが、5月播種で同様の結果を得るには条間17cmとする必要がある(図1)。いずれの時期にも対応できるよう、不耕起栽培に用いる播種機は条間20cm以下に設定できるものが望ましい。
  • 不耕起栽培と耕起栽培のスーダングラス乾物収量は1番草、2番草ともに差はない。ただし、1番草収穫時の雑草乾物重は不耕起栽培では耕起栽培よりも多い(表1)。しかし、播種前にグリホサートカリウム塩剤を処理すると、雑草乾物重は耕起栽培と同程度に減少する(表1)。このように、不耕起栽培では播種前のグリホサートカリウム塩剤の処理が雑草防除に有効である。
  • 耕起栽培の播種作業は施肥、耕耘、播種、覆土、鎮圧の5工程で(図2)、作業時間は1.12h/10aである(表2)。これに対し、不耕起栽培では除草剤散布、播種・施肥同時作業の2工程で(図2)、作業時間は0.36h/10aである(表2)。耕起栽培と比較し、不耕起栽培では作業時間と燃料消費量をそれぞれ約7割削減できる(表2)。
  • スーダングラスの生産に関わる10aあたりの物財費は、耕起栽培と比べて不耕起栽培では約6%削減できる。

普及のための参考情報

  • 普及対象:大規模飼料生産組織
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:普及予定地域は九州、四国等の暖地、普及予定面積1000ha程度
  • その他:本成果は不耕起播種機(3P606NT(施肥機を増設済み)、条間19cm、作業幅1.71m)を用い、大規模飼料生産組織と協力して調査を行ったものである。不耕起播種の注意点として、前作の刈り株や残渣等が多い圃場では播種機に残渣がまとわりつき、播種作業が困難になるため、除草剤処理の後、フレールモア等で細断し播種する。あるいは細断後、茎葉が再生した時期に除草剤を処理し播種する。また、圃場内にトラクタのわだちの様な段差がある場合には覆土が困難になるため、通常の耕起栽培とする。

具体的データ

図1 条間別のスーダングラス(SG)と雑草(W)の被度の推移;表1 栽培条件の違いによるスーダングラス乾物収量、雑草乾物重;表2 耕起および不耕起播種作業時間、軽油消費量の比較;図2 耕起栽培および不耕起栽培の播種作業手順

その他

  • 予算区分:交付金、その他外部資金(25補正「革新プロ」)
  • 研究期間:2009~2016年度
  • 研究担当者:加藤直樹、服部育男、吉川好文、小林良次、金子真
  • 発表論文等:加藤ら(2017)日本暖地畜産学会報、60:3-8