ウイルス流行モデルによるイネ南方黒すじ萎縮病の発生要因と発病株率の推定
要約
中国大陸から飛来するセジロウンカによって媒介されるイネ南方黒すじ萎縮病について、発生条件をウイルス流行モデルで解析すると、ウイルス保毒虫の飛来量が多いほど、また飛来時期が早いほどイネの発病株率は上昇すると推定される。
- キーワード:イネ南方黒すじ萎縮ウイルス、イネウンカ類、海外飛来、発生予察
- 担当:九州沖縄農業研究センター・生産環境研究領域・虫害グループ
- 代表連絡先:q_info@ml.affrc.go.jp、Tel:096-242-7682
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
イネ南方黒すじ萎縮病は2001年に中国南部で初発生が確認された新規発生ウイルス病で、国内でも2010年の初発生以降、飼料イネ品種を中心に断続的に発生している。原因となるイネ南方黒すじ萎縮ウイルス(SRBSDV)は国内では越冬できないが、ウイルスを保毒したセジロウンカが毎年中国大陸から飛来することで国内でも被害が発生する。
薬剤によるセジロウンカの防除は本萎縮病の発生防止に効果的である。ただし、SRBSDVの野外データは乏しいことから、本病の多発条件は不明であり、発生予察法も確立されていない。そこで、セジロウンカの飛来量と飛来時期、およびSRBSDV保毒率から本病の発生量を推定するための離散時間モデルを作成し、本病の発生に影響する主な生態的要因を推定したうえで、これら要因と発病株率との量的関係を推測する。
成果の内容・特徴
- 既存の昆虫媒介性ウイルス流行モデル(Jeger et al. 2004、Physiological Entomology)にセジロウンカの個体群動態やSRBSDVの媒介に関するパラメータ値を組み入れたSRBSDV流行モデルでは、セジロウンカの飛来時期、飛来量およびウイルス保毒虫率からイネ南方黒すじ萎縮病の発病株率を推定できる(図1)。
- SRBSDV流行モデルによる発病株率の変動に対する生態的要因の寄与率は、SRBSDV保毒成虫の飛来量が最も高く、次いで保毒成虫の飛来時期が高いと推定される(表1)。一方、セジロウンカの総飛来量と飛来後のセジロウンカの増殖率は本病の発生にほとんど影響しない。
- SRBSDV保毒虫の飛来量と飛来時期から飼料イネ品種での発病株率を推定すると、保毒成虫の飛来量が多いほど、また飛来する時期が早いほど発病株率は高くなる(図2)。
成果の活用面・留意点
- 保毒虫の飛来量と飛来時期から推定できる本病の発病株率は、今後イネ南方黒すじ萎縮病の野外データが蓄積されるまでの暫定的な値として活用できる。
- 作成したSRBSDV流行モデルの詳細については発表論文を参照。
- 本成果は飼料イネを対象としたものであるが、イネ南方黒すじ萎縮病は食用イネ品種でも発生する。
具体的データ

その他
- 予算区分:交付金、競争的資金(農食事業)
- 研究期間:2012~2015年度
- 研究担当者:松倉啓一郎、渡邊朋也、松村正哉
- 発表論文等:Matsukura et al. (2017) Journal of Pest Science (オンライン公表済)
DOI: 10.1007/s10340-016-0811-2