複数病虫害抵抗性を持ち高温耐性が優れる水稲新品種候補系統「西海297号」
要約
「西海297号」は「ヒノヒカリ」と同熟期の"中生"に属するうるち種である。「ヒノヒカリ」より約15%多収で、高温登熟耐性に優れ、倒伏に強い。いもち病、縞葉枯病、トビイロウンカに対する抵抗性をあわせ持つ。佐賀県で普及予定である。
- キーワード:イネ、中生、耐病虫性、高温耐性、多収
- 担当:九州沖縄農業研究センター・水田作研究領域・稲育種グループ
- 代表連絡先:q_info@ml.affrc.go.jp、Tel:096-242-7682
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
家庭用の米の消費が減少する中で、業務用米には安定した需要がある。病虫害による被害を受けやすい暖地の業務用米生産地域では、生産コスト低減に向け、病害虫に抵抗性のある品種の育成が強く求められている。
そこで、減農薬栽培を可能とする複合抵抗性を備えた良質・良食味の品種を開発する。
成果の内容・特徴
- 「西海297号」は、いもち病圃場抵抗性遺伝子Pi39を持ち、良質・良食味の「泉2121(後の「西海265号」)」と複合抵抗性品種「はるもに」の姉妹多収系統「泉2507」を人工交配した後代から育成された(表1)。
- 福岡県における普通期移植栽培での出穂期・成熟期とも「ヒノヒカリ」より3日遅く、暖地では"中生"に分類される(表1)。佐賀県農業試験研究センターにおける試験でも、出穂期・成熟期は「ヒノヒカリ」より数日遅い(表2)。
- 稈長は「ヒノヒカリ」より約4cm長く、穂長は約1cm長く、穂数はやや少ない(表1)。
- 玄米重は、「ヒノヒカリ」に対して標肥では15%、多肥では12%多収である(表1)。佐賀県農業試験研究センターにおける試験でも、「ヒノヒカリ」よりやや多収である(表2)。
- 耐倒伏性は「ヒノヒカリ」より優る"やや強"である(表1)。
- 玄米の千粒重は「ヒノヒカリ」と同程度で、外観品質は「ヒノヒカリ」より優れる。高温登熟耐性は「ヒノヒカリ」より強い"やや強"である(表1)。
- いもち病真性抵抗性遺伝子型は"Pii"で、Pi39と穂いもち抵抗性遺伝子Pb1をあわせ持ち、葉いもちおよび穂いもち圃場抵抗性はともに"強"である。白葉枯病圃場抵抗性は"やや弱"である。縞葉枯病抵抗性遺伝子Stvb-iを持ち、本病には抵抗性である。トビイロウンカ抵抗性遺伝子bph11を持ち、"中"の抵抗性を示す。穂発芽性は"やや難"である(表1)。
- 「ヒノヒカリ」と比較して、白米のアミロース含有率はやや低く、玄米蛋白質含有率は同程度である。炊飯米の粘りが「ヒノヒカリ」より少なく、食味は「ヒノヒカリ」よりやや劣る(表1)。
成果の活用面・留意点
- 白葉枯病にやや弱いため、常発地での栽培は避ける。
- 減農薬栽培に向き、弁当用途として佐賀県で普及予定(約600ha)である。
具体的データ

その他
- 予算区分:交付金、委託プロ(業務・加工用、温暖化適応・異常気象対応)
- 研究期間:2007~2016年度
- 研究担当者:田村克徳、竹内善信、片岡知守、佐藤宏之、田村泰章、坂井真、梶亮太
- 発表論文等:田村ら、品種登録出願(2017年6月)