いもち病抵抗性イタリアンライグラス極早生品種「九州1号」
要約
イタリアンライグラス「九州1号」は極早生で、いもち病抵抗性が既存の抵抗性品種「さちあおば」より強い。暖地で9月播種した場合の年内草と春1番草の合計乾物収量が「さちあおば」より多収となる。
- キーワード:イタリアンライグラス、いもち病抵抗性、極早生、9月播種、年内収穫
- 担当:九州沖縄農業研究センター・畜産草地研究領域・飼料作物育種グループ
- 代表連絡先:q_info@ml.affrc.go.jp、Tel:096-242-7682
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
暖地で広く栽培されるイタリアンライグラスについては、9月播種し年内草を収穫する栽培に対する畜産農家からの要望がある。しかし9月に播種すると、いもち病の発生による大幅な減収や品質低下の危険性があるため、現在の流通品種の利用では9月播種は奨励していない。そこで、イタリアンライグラスの9月播種・年内収穫を行う栽培を可能にするため、既存の極早生・いもち病抵抗性品種「さちあおば」よりいもち病抵抗性や年内草の収量をさらに高めた極早生品種を育成する。
成果の内容・特徴
- イタリアンライグラス「九州1号」は、山口県農林総合技術センターで開発された、いもち病抵抗性系統「山育185号」(極早生)と「山系32号」(早生・多収)との交配後代から、母系選抜により育成した品種である。
- 8月下旬に播種した場合や、2016年秋のように高温・多雨の時にいもち病は発生しやすく、「あかつき」などの罹病性品種で4(1:無・微-9:甚)以上の発生となる。そうした場合においても「九州1号」の発病程度は2以下であり、いもち病抵抗性は既存の抵抗性品種「さちあおば」より強く、「ヤヨイワセ」並である。(表1)。この結果、発生の甚だしい場合の年内草の生育は、抵抗性のより弱い品種より優れる(図2)。
- 「九州1号」の出穂始めは、「さちあおば」および「ヤヨイワセ」並であり、極早生に属する(表2)。
- 九州地域における9月播種での年内草と春1番草の合計乾物収量(6場所・2カ年間平均)は「さちあおば」比107と多収であり、「ヤヨイワセ」比105と多収である(図1)。また、沖縄における10月播種での3番草までの合計乾物収量(2カ年平均)は「さちあおば」比112と多収であり、「ヤヨイワセ」と同等である(図1)。
- 乾物率は年内草、春1番草とも「さちあおば」および「ヤヨイワセ」と同程度である(表2)。
- 草丈は、年内草、春1番草とも「さちあおば」よりやや高く、「ヤヨイワセ」と同程度である(表2)。
- 倒伏程度は、「さちあおば」および「ヤヨイワセ」と同程度である(表2)。
- 冠さび病抵抗性は「さちあおば」よりやや弱く、「ヤヨイワセ」より弱く、「強」である(表2)。
成果の活用面・留意点
- 暖地の9月播種が可能であり、高品質な年内草および春1番草の多収が見込まれ、夏播き用エンバクとの混播利用も期待できる。当面の適地は九州地域および沖縄とする。
- 9月播種では雑草との競合によってイタリアンライグラスの生育が抑制されるため、特に雑草の繁茂が予想される場合には、前作で適切な栽培管理を行う、除草剤を散布する(エンバクとの混播の場合を除く)などの対策を行う。
具体的データ

その他
- 予算区分:交付金、競争的資金(農食事業)
- 研究期間:2011~2016年度
- 研究担当者:荒川明、桂真昭、波多野哲也、山下浩、松岡誠、我有満、高井智之、木村貴志、上床修弘
- 発表論文等:2017年度に品種登録出願予定