フランスパン加工適性が高い暖地・温暖地向け準強力小麦新品種「さちかおり」
要約
「さちかおり」は早生で稈長がやや短く耐倒伏性のパン用硬質小麦である。穂発芽性がやや難で、容積重が大きい。アミロース含量はやや低く、穀粒硬度が高い。生地の力は「ミナミノカオリ」よりやや弱く準強力的でフランスパン適性がある。
- キーワード:コムギ、フランスパン、準強力小麦、半数体育種
- 担当:九州沖縄農業研究センター・水田作研究領域・小麦・大麦育種グループ
- 代表連絡先:電話029-838-7410
- 分類:普及成果情報
背景・ねらい
九州地域で広く栽培されているパン用小麦「ミナミノカオリ」は、成熟期がやや遅く、穂発芽性がやや易であるため穂発芽被害を受けやすく、しばしばその被害が問題となっている。その一方で実需者からはフランスパンに適する小麦品種が欲しいとの要望がある。そこで、実需者とフランスパン焼成試験で連携し、フランスパン適性のある早生で穂発芽性を改善したパン用小麦品種を開発する。
成果の内容・特徴
- 「さちかおり」は「西海174号」を母、「中系05-44」を父として人工交配を行い、得られたF1個体由来の半数体倍加系統より選抜する半数体育種により育成された品種である。
- 播性の程度はIIの春播性で、「ミナミノカオリ」と比較して、出穂期と成熟期は2~3日程度早い早生種で、稈長は短く、倒伏程度は同等で耐倒伏性がある(表1)。ふ色は黄白色で有芒種である。
- 「ミナミノカオリ」と比較して、穂数が多く多収である。容積重が大きく、千粒重はやや小さい。外観品質はほぼ同程度である(表1)。
- 穂発芽性は「やや難」、縞萎縮I型抵抗性は「やや強」、うどんこ病抵抗性は「中」、赤さび病および赤かび病抵抗性は「やや弱」である。
- 「ミナミノカオリ」と比較して、原粒のたんぱく質および灰分含量は少ないが、穀粒硬度が高い。60%歩留の粉のアミロース含量はやや低く、生地の力はやや弱く準強力的である(表2)。
- フランスパン加工適性がすぐれる。「ミナミノカオリ」に比較して、体積が大きく、焼き色が濃く(図1)、2016年佐賀県現地産材料を用いた加工適性試験では、フランスパンは風味が高く(香気成分分析データ省略)、うま味および甘味成分であるアスパラギン酸、グルタミン酸、グルタミン、グリシン、アラニン含量が高い(表3)。
普及のための参考情報
- 普及対象:小麦生産者
- 普及予定地域・普及予定面積:栽培適地は温暖地以西の平坦地。2017年佐賀県主要農産物種子協会より許諾申請が有り、佐賀県東部地域を中心に普及見込み面積は30ha(2020年産)。
- その他:フランスパン用途としての「さちかおり」の目標原粒たんぱく質含量は11.5%である(実需者評価より)。目標たんぱく質含量となるように実肥を適当量施用する必要がある。
具体的データ

その他
- 予算区分:交付金、委託プロ(業務・加工用)
- 研究期間:2005~2017年度
- 研究担当者:中村和弘、境哲文、平将人、松中仁、杉田知彦、塔野岡卓司、西尾善太、河田尚之、藤田雅也、八田浩一、久保堅司、小田俊介、乙部千雅子、関昌子、石川直幸、高田兼則、谷中美貴子、池田達哉
- 発表論文等:中村ら「さちかおり」品種登録第26589号(2018年2月9日)