熊本地震で水田に生じた不陸凹部のダイズは湿害によって減収した

要約

2016年熊本地震の被災水田では土面に著しい凹凸(不陸)が生じるとともに、給水管破損に伴い水稲の作付けが困難となった。不陸が生じた水田で水稲の代わりにダイズを栽培した結果、凹部のダイズは湿害を受けて減収した。

  • キーワード:熊本地震、湿害、水田、ダイズ、不陸
  • 担当:九州沖縄農業研究センター・生産環境研究領域・農業気象グループ
  • 代表連絡先:電話0942-52-0602
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

2016年4月14日以降、熊本県熊本地方を中心に起こった一連の地震活動(熊本地震)は地域の営農活動に甚大な被害を及ぼした。本震震源地の益城町に隣接する熊本市東区秋津地区の農業地帯においては、地下に埋設していた給水管が破損したため水稲の作付けが困難になり、代替作物としてダイズ品種「フクユタカ」が大規模に作付けされることとなった。地震が起こると、地盤沈下に伴い水田の土面には凹凸(不陸)が生じることがある。秋津地区では多くの水田で不陸が生じたが、発生面積が広範囲に及んだため、土面を均平化することができずにダイズが栽培された。そこで、不陸が発生した水田において土面の凸部と凹部で生育調査を行い、地震で水田に生じる不陸がダイズ栽培に及ぼす影響を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 凸部と凹部の高低差が20cm程度生じた水田においてダイズの葉色にムラが生じた。凸部と凹部では葉色が濃い群落と淡い群落の場所にそれぞれ一致し、これはドローンを用いた空撮により確認している(図1)。
  • 主茎長や主茎節数などの栄養成長量は凹凸部で有意な差は認められなかったことから、少雨であった栄養成長期においては不陸の影響はなかったと推察された。ダイズの生殖成長期における降水量が平年値の約2倍にも上った結果、凸部と比べて凹部は湿害を受けて葉色値(SPAD値)が低下していた(表1)。
  • 湿害を受けた凹部では吸水機能が低下するため、蒸散要求度の高い日中において十分に蒸散できずに葉温が上昇した(図2)。
  • 生殖成長期以降に湿害を受けた結果、凹部では稔実莢数の減少を通して減収した。さらに、莢が熟色を呈しているのにも関わらず茎葉は黄緑色である青立ち個体が多発している(表2)。

成果の活用面・留意点

  • 本成果を活用して、地震によって水田に生じる不陸が水稲の代わりに栽培されるダイズの生育へ及ぼす影響を想定でき、事前に対策を講じることで被害の低減に貢献できる。
  • 本成果は熊本市東区秋津地区の不陸が生じた低地土水田にダイズ品種「フクユタカ」を7月中旬に条間75cm・株間15cm・2粒播きして得られた結果である。
  • 本成果における栽培期間中の気象は、出芽期~開花期は高温・少雨・多照、開花期~成熟期は高温・多雨・寡照で推移した。

具体的データ

図1 不陸が生じたダイズ圃場の空撮写真;表1 土面の凸部と凹部におけるダイズの葉色値;図2 不陸が生じたダイズ圃場の葉温分布;表2 ダイズの収量構成要素、収量および成熟整合性程度

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(農食事業)
  • 研究期間:2016年度
  • 研究担当者:野見山綾介、松尾直樹、脇山恭行、柴田昇平、榮誠三郎(熊本県)、石塚直樹、岩﨑亘典、坂本利弘
  • 発表論文等:野見山ら(2018)日作紀、87:176-182