ジャージー種雄子牛を活用した放牧肥育による牛肉生産

要約

ジャージー種雄子牛は、離乳後から3ヵ月間放牧肥育することにより、出荷時体重が約200kg、枝肉重量は約90kgになる。ロース、バラおよびモモのたんぱく質含量は約20%、脂質含量は1%以下であり、市販肉と比べて脂質が特に少ない特徴がある。

  • キーワード:雄子牛、産肉性、ジャージー種、栄養成分、放牧肥育
  • 担当:九州沖縄農業研究センター・畜産草地研究領域・肉用牛生産グループ
  • 代表連絡先:096-242-7854
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

わが国では、肥育農家は繁殖農家が生産した肥育素牛を家畜市場から購入して飼養する場合が多い。しかし、近年、和牛肥育素牛の価格高騰に伴い、ウシ導入費用としてホルスタイン種雄子牛や交雑種雄子牛であっても数十万円の経費負担を余儀なくされている。
一方、九州沖縄地域においては、早熟・従順などの特性を有し放牧適性が高いジャージー種が乳用牛として一定の地域で長く利用されているが、出生する雄子牛の肉用資源としての活用は十分でない。また、30ヵ月齢以上の長期肥育(慣行肥育方法)の試験はあるが、ジャージー種は小型のため和牛やホルスタイン種と比べて産肉量も少ないなど普及上の問題がある。子牛肉については、ヨーロッパでは高級食材として取り扱われているが、国内での生産は限られており、ジャージー種雄子牛を用いた生産事例も見当たらない。
そのため、ジャージー種雄子牛を去勢しないまま草地に放牧し、除角も行わずに放牧肥育を行えば、ストレスによる成長停滞がなく省力的に牛肉を生産できる可能性がある。しかも、ウシ導入経費を極めて安価に抑えられ、生産物には子牛肉という希少価値も期待できる。
そこで、本研究では、ジャージー種雄子牛を用いて、昼夜放牧と補助飼料給与を組み合わせた飼養技術の確立について検討するとともに放牧肥育したジャージー種雄子牛の産肉性や肉質、特に栄養成分を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 離乳したジャージー種雄子牛(4ヵ月齢)を1~3月に各3頭ずつ導入し、1ha(20a×5牧区)の草地で3ヵ月間放牧肥育を行う(放牧時期は2~6月)。バヒアグラス草地にイタリアンライグラスを追播した草地に放牧する。2~6月の放牧草の飼料成分には変動があり、可消化養分総量(TDN)は2~5月のイタリアンライグラスで約57~73%、6月のバヒアグラスは約51%となる。補助飼料には市販配合飼料(TDN:約75%)を平均で2.5kg/日/頭(約1~3kg)を用い、午前中に1回飽食給与を行う。この他、塩(約6g/頭/日)を給与する。
  • 全9頭の平均で出荷体重は約200kg、1日増体量は1.0kg/日となる。と畜後の枝肉および部分肉重量は、それぞれ約90kg/頭、約60kg/頭となり、産肉量はウシの導入時期の違いに影響されない(表1)。
  • ロース、バラならびにモモの栄養成分は、たんぱく質含量が約20%であり、脂質含量が1%以下であり、脂質が特に少ない特徴がある(表2)。

成果の活用面・留意点

  • 食品としての希少価値や健康志向の消費者を対象にした販売戦略が有効である。
  • 放牧開始後に水分含量の多い生草を摂取する放牧牛特有の症状である水様性便が見られる。
  • バヒアグラスにイタリアンライグラスをオーバーシーディングした草地を2~6月に放牧利用した場合の結果である。

具体的データ

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2014~2015年度
  • 研究担当者:中村好德、金子真、河野一彦、小林良次
  • 発表論文等:中村ら(2017)日本暖地畜産学会報、60(2):145-150