イネ南方黒すじ萎縮ウイルスのジャポニカ品種に対する感染性と病徴

要約

イネ南方黒すじ萎縮ウイルスはジャポニカ、インディカおよび日印交雑の供試5品種に感染し、萎縮症状を引き起こす。本病の典型的な病徴のひとつである葉先のねじれ症状は食用ジャポニカ品種の「ヒノヒカリ」では確認できない。

  • キーワード:セジロウンカ、イネ南方黒すじ萎縮病、水稲、感染性
  • 担当:九州沖縄農業研究センター・生産環境研究領域・虫害グループ
  • 代表連絡先:電話096-242-7762
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

イネ南方黒すじ萎縮病はセジロウンカSogatella furciferaが媒介するイネ南方黒すじ萎縮ウイルスSouthern rice black-streaked dwarf virus(SRBSDV)によって引き起こされるイネとトウモロコシのウイルス病である。国内では食用のジャポニカ品種よりも、日印交雑品種が大半を占める新規需要米で被害の発生が問題となっている。一方で、これまでの研究により、食用米であるジャポニカ品種においても本病の発生が深刻化する可能性が指摘されている。そこで、九州の代表的な水稲ジャポニカ品種である「ヒノヒカリ」へのSRBSDVの感染性を他の品種と比較し、ジャポニカ品種におけるイネ南方黒すじ萎縮病の発生リスク推定に資する。

成果の内容・特徴

  • SRBSDVは、供試したジャポニカ品種「ヒノヒカリ」、「日本晴」と、インディカ品種「TN1」、「IR24」、および日印交雑品種「水原258」いずれにも感染する(表1)。
  • 「ヒノヒカリ」では、本病の典型的な病徴とされている葉先のねじれ症状(図1)は確認できない(表1)。
  • いずれの供試品種もSRBSDVに感染すると草丈の伸長が抑制される(図2)。健全株と比べた萎縮率は、いずれの品種でも40~50%である。
  • RT−qPCR法によるSRBSDVのウイルス濃度は感染株間差が大きいものの、葉先のねじれ症状が認められないジャポニカ品種の感染株からも本法によってSRBSDVの検出・定量が可能である(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 食用ジャポニカ品種「ヒノヒカリ」もインディカ品種や日印交雑品種と同様、SRBSDVに感染することから、今後「ヒノヒカリ」でも防除対策を考慮する必要がある。
  • 本成果では「日本晴」でも葉先のねじれ症状は確認されなかったが、過去の報告では「日本晴」でねじれ症状が生じたという報告がある。
  • RT-qPCR法によるSRBSDVの検出・定量法はMatsukura et al. (2013, Phytopathology 103:509-512)を参照。
  • 現状、圃場での本病の診断は葉先のねじれの有無に基づく場合が多い。ねじれ症状が認められないジャポニカ品種では、草丈の萎縮症状などからイネ南方黒すじ萎縮病への感染が疑われる場合には、上記RT-qPCR法のほか、特異的抗体を用いたELISA法などによる診断が有効である。

具体的データ

表1 イネ南方黒すじ萎縮病の感染率と病徴発現における水稲の品種間差;

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(農食事業)
  • 研究期間:2011~2015年度
  • 研究担当者:松倉啓一郎、砥綿知美、真田幸代、松村正哉
  • 発表論文等:Towata T. et al. (2017) Appl. Entomol. Zool. 52(4):615-621