水稲のシンク容量増大に関与するアリルは高CO2濃度で収量を顕著に増加させる

要約

開放系大気CO2濃度増加条件において、「コシヒカリ」の遺伝的背景に多収品種「タカナリ」由来のシンク容量の増大に関与するGN1又はAPO1アリルを導入した系統は、高CO2濃度により増加した炭水化物を穂により多く転流できるため、高い収量が得られる。

  • キーワード:大気CO2濃度、FACE、シンク容量、GN1APO1
  • 担当:九州沖縄農業研究センター・水田作研究領域・水田栽培グループ
  • 代表連絡先:電話096-242-7682
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

水稲を含むC3植物は、大気CO2濃度の上昇に対し、光合成産物の増加を介し、収量及び生育が高まる。「タカナリ」等の水稲の多収品種は、一般の主食用品種に比べ、シンク容量(籾数×精玄米粒重)が大きく、大気CO2濃度の上昇に対し、増加した炭水化物のシンクへの転流が進み、増収しやすいことが示唆されている。しかし、そのような多収品種は、大きなシンク容量以外にも、多収に繋がる多数の形質を持っている。このため、大気CO2濃度を増加させた条件において、シンク容量を増大させることの効果を正確に判断できていない。本研究では、一般の主食用品種「コシヒカリ」の遺伝的背景に多収品種「タカナリ」由来のシンク容量の増大に関与する対立遺伝子(アリル)を導入した2系統を開放系大気CO2濃度増加(FACE)実験に供し、通常大気(Ambient)に比べ概ね200ppm程度高いCO2濃度において、シンク容量の増大が収量に及ぼす影響を明らかにする。なお、供試した2系統は、GN1アリルを導入した染色体断片置換系統「CSSL-GN1」及びAPO1アリルを導入した準同質遺伝子置換系統「NIL-APO1」である。

成果の内容・特徴

  • Ambient条件下では、「CSSL-GN1」及び「NIL-APO1」は、「コシヒカリ」に比べ、籾数が多いが登熟歩合が低く、収量は概ね同程度になる(図1A~D)。これに対し、FACE条件下では、「CSSL-GN1」及び「NIL-APO1」は、「コシヒカリ」に比べ、籾数が多くなるが登熟の低下が抑えられ、増収する。
  • 成熟期における乾物重は、FACE条件下の全ての品種が、Ambient条件下のそれらに比べ多くなる(図2A)。しかし、それぞれの条件下において、品種・系統間にその差異はない。
  • 収穫指数は、FACE条件下の「CSSL-GN1」が、Ambientのそれに比べ高い(図2B)。また、Ambient条件下では「CSSL-GN1」が最も低いが、FACE条件下では「コシヒカリ」と概ね同程度になり、改善する。
  • 成熟期における茎部非構造性炭水化物(NSC)量は、FACE条件下の全ての品種が、Ambient条件下のそれらに比べ多くなる(図2C)。また、Ambient条件下では「CSSL-GN1」及び「NIL-APO1」が「コシヒカリ」と概ね同程度であるが、FACE条件下では「コシヒカリ」に比べ少なくなる。
  • 以上のことから、FACE条件下において、「コシヒカリ」は、シンク容量が限られているため、高CO2濃度により増加した炭水化物の穂への転流も限られるが、「CSSL-GN1」及び「NIL-APO1」は、シンク容量が増大しているため、その炭水化物の穂への転流が進み、顕著な増収に結びつく。

成果の活用面・留意点

  • 将来的に予測されている大気CO2濃度の上昇した環境に向けた多収品種育成のための基礎的知見として活用できる。
  • 「CSSL-GN1」は、「NIL-APO1」に比べ、過剰に籾数が多くなるため、FACE条件下における増収効果が小さくなると考えられる。
  • つくばみらいFACE実験施設(茨城県つくばみらい市)において2012年及び2013年に得られた結果を基に記載している。

具体的データ

図1 異なるCO2濃度及び品種・系統が精玄米収量(A)及び収量構成要素(B~D)に及ぼす影響;図2 異なるCO2濃度及び品種・系統が成熟期の乾物重(A)、収穫指数(B)及び茎部NSC量(C)に及ぼす影響.

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(温暖化適応・異常気象対応)
  • 研究期間:2012~2017年度
  • 研究担当者:中野洋、吉永悟志、高井俊之(国際農林水産業研究センター)、荒井裕見子、近藤勝彦(国際農林水産業研究センター)、山本敏央、酒井英光、常田岳志、臼井靖浩、中村浩史(太陽計器株式会社)、長谷川利拡、近藤始彦(名古屋大学大学院生命農学研究科)
  • 発表論文等:Nakano H. et al. (2017) Sci. Rep. 7:1827 doi:10.1038/s41598-017-01690-8